13-02


本日はクリスマスである。
柊美冬は今朝も誰もいない図書室にやってきては返却本の整理をしながら、登校する沢田綱吉の様子を確認していた。

この冬、彼にとっての兄弟子であるディーノが現れてから、沢田綱吉は実に大忙しだった。桃巨会を潰したり、ケガで入院したり、山奥で修行をしたりと目まぐるしい日々に、彼は随分と胃を痛めていた。

今日の沢田綱吉は随分と楽しそうな様子で獄寺に話しかけていた。すると、獄寺の目が大変にキラキラ輝き、続いてその場で涙を流し始めた。さしずめ、今夜は沢田家のクリスマスパーティーに獄寺もお呼ばれした、といったところだろうか。見ているこちらが思わず微笑ましくなってしまう。


「よかったですね、獄寺君」




すると、校門の前に黒塗りの高級車がとまった。
中から出てきたのは風紀委員会副委員長の草壁である。さらに、草壁が車のドアを開けると、そこから出てきたのは、案の定風紀委員長の雲雀恭弥である。


(うわぁ…)



車を一歩降りたその時より、雲雀の身体からは禍々しい殺気が放たれた。
間違いなく、この弛緩した空気に苛立っているに違いないと柊は察して顔を引きつらせる。すると、窓の外の雲雀は、目の前を通過しようとしていたカップルを容赦なくいきなり吹き飛ばし、校門には悲鳴が響き渡った。



「……うわぁ」


二度目の心の声は、口から飛び出てしまった。
まるで蜘蛛の子を散らすようにm生徒たちは校門から逃げ去ろうとする。
だが、雲雀は舌なめずりしながら一人一人を確実に咬み殺し、辺りは死屍累々、凄惨な状況だ。
やがて雲雀は獄寺や綱吉もその牙にかけ、校門は朝からドォン!と獄寺が放った景気のいいボムの音が響きわたる。とんだデス・クリスマスである。

すべての群れる者を破壊せしめんと苛立つ雲雀に、沢田家のクリスマスパーティーに呼ばれ、やたら生きのいい獄寺、そんなことはどうでもいいからと逃げ惑う綱吉に苦笑していると、からり、と図書室の扉が遠慮がちに開いた。

それは、図書委員の女子生徒だった。見ればどことなくもじもじした雰囲気から、彼女が何かを言いたいのはすぐに察することが出来た。


「すみません委員長!今日の放課後、図書当番当たってたんですけど、今日はちょっと用事が出来ちゃいまして…」
「?あ、いいですよ、私代わりますね」
「え!いいんですか」
「はい、別に用事もないので」


そりゃそうだ、クリスマスだもの。
イベントや約束の一つや二つ、ありますよね。
柊はふむふむと納得し、彼女と明後日の図書当番を交換することで決着した。



「有難うございます。ほんっと助かります!!」
「いえいえ」





クリスマスだもの、しょうがないと思う。

日本とイタリアのクリスマスの様相は少し違うけれど、大事な人と過ごす時間という点については同じである。
件の女子生徒はどうやら付き合いたての彼氏とデート、とのことで、今日を楽しみにしていたらしい。それはしょうがない、楽しんできてほしい。
そうして女子生徒を送り出すと、我も我もと今日当番に当たっていたはずの図書委員がやって来ては、頭を下げていく。ボムの轟音を背に、柊は大丈夫です、と快諾しながら彼らを見送った。










そして昼休み。
柊が図書当番の為図書室にいると、ふらりと現れたのは山本武だった。

「あれっ?美冬先輩昼休み当番なんて珍しいッスね」
「……あなたが図書室に来るよりは珍しくないと思いますが」
「そりゃそーだ!」

からりと笑う山本武は頭を掻きながらカウンターにいる美冬の下へと歩み寄ってきた。


「先輩、今日の放課後どうするんスか」
「図書室当番ですよ」
「マジか…誰かと交換できねーの?」
「もう交換済みです」


ことのあらましを説明すれば、山本武は「そっか」と言って苦笑した。
何か用があったのか、と問えば、「今夜友達のうちでパーティーやるから、先輩もどうかと思って」と説明がなされた。

(それ、沢田家でやるパーティーのことなんじゃ…)

沢田綱吉との接触を避けていた柊は「人数が増えてもご迷惑でしょうから、遠慮します」ときっぱり言い切った。残念だな、と言って帰っていく山本を見送りながら、柊は沢田家で本日行われるパーティーが随分楽しそう…だし、大パニックになりそうだなと思って、一人笑った。

今日も沢田家には、綱吉の悲鳴が轟くことになるだろう。













雲は一日中空を覆い続けた。
一瞬の晴れ間も、一筋の光さえも射すことはなく、そうして迎えた放課後。

玄関に向かう生徒達とすれ違いながら、柊美冬は一人図書室へと足を向けた。いつものようにがちゃりと鍵を開けて中に入る。照明を点けると、彼女は室内ヒーターの電源を入れた。
今日は雪予報と言うだけあって、随分寒い。


窓の外には今にも泣き出しそうな暗い曇天が広がり、その下を生徒たちがワイワイと賑やかに下校していく。

雲雀恭弥はどうしたのだろうか。
朝の調子では目に入った、群れる人すべてを無差別攻撃していたようにみえたが、流石に疲れて、横になっているのだろうか。



そんなことを考えていると、柊の目には、笹川兄妹が仲睦まじげに下校している様子が目に飛び込んできた。
そういえば、笹川了平は「今日はラ・ナミモリ―ヌで京子と一緒にケーキを買って帰る」と言っていた。そして、その後方を獄寺と山本、そして沢田綱吉がわいわい言いながら下校していく。






(クリスマス、楽しんでね)





美冬はそう心の中で呟いた。

口にするとなんだか空しくなるような気がした。


そんな時だった。











「……今日”も”随分暇そうだね」





背後から、声がした。
いつの間に入って来たんだろうか、気配は全く感じられなかった。
大体、”今日も””暇そう”とはどういうことか。
彼女はどこかの風紀委員長のせいでいつも大忙しである。
今日は、たまたま、暇なだけだ。



柊美冬は去来した思いを全てのみ込んで振り向いた。



「ええ、おかげさまで」



口許からは、何故か笑みがこぼれた。












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