08-06


9月9日。

それは獄寺隼人の誕生日だった。
その日は朝から散々だった。
登校すれば女子生徒の集団が教室の前で集っており、獄寺の平和な朝は詰め寄ってくる女子たちによって打ち砕かれた。

「獄寺君、お誕生日おめでとう!」
「は?いらねーし」

目の前に差し出されたカラフルなラッピング達。
獄寺はあっさりと切り捨て、共に登校していた沢田綱吉は目を白黒させていた。
なんならガンを飛ばして睨んでやるが、集団で迫りくる女と言うのは食い下がる生き物である。


「そんなこと言わないで!さあ!」
「さあってなんださあって!!だからいらねーっつってんだろ!」


そんなわけで、鼻息荒く詰め寄ってくる女子生徒達から逃げるため、獄寺は教室を飛び出したのである。

どこへ逃げても見つかった。
女子たちの情報網を甘く見ていた。
屋上はすぐに見つかったし、校舎裏のたまり場もみつかった。
グラウンド横の部活動棟にいけば、部活動棟を根城にしている女子に早々に見つかった。


沢田綱吉は言った。
「みんな獄寺君のこと、お祝いしたいだけなんだよ」と。
だが、沢田綱吉以外から祝われても、全く嬉しくなんて無いのが今の獄寺隼人である。


行く当てもなくフラフラしていた獄寺が最後に見つけたのは、3階の一番奥にある部屋だった。


授業中ということもあり、廊下はしんと静まり返っている。
誰にも見られていないことを確認して、獄寺は扉にかかっていた鍵を持ち前の技術で解錠すると、そうっと忍び込んだ。


「…図書室か」


その部屋には大きな書棚がいくつもあり、どの列にもぎゅうぎゅうに本が詰められていた。
図書室と言えば、獄寺の記憶にあるのはどこもかび臭い匂いが立ち込める、暗い場所。だが、その部屋には光が明るく差し込んでいてなんとも気持ちが良いものだった。3階にあるということもあり、並盛中のグラウンドや通学路も見渡すことが出来る絶景スポットだ。


「こんなとこあったんだな」


しばらく窓の外を眺めた獄寺は、ふと図書カウンターの隅に「リクエストボックス」と書かれた箱があるのを見つけた。
どうやら生徒から集まったリクエストの中からいくつかを、図書委員会の予算で購入するシステムのようで、箱の中にはぱらぱらと記入された用紙が入っている。


獄寺が最近気になる本と言えば、『経済力で地域を支配する〜新時代のイタリアンマフィア〜』である。書店で見かけたものの、輸入本のため少し高価なそれは、極貧生活を送る獄寺には手の届かない代物だった。

試しにリクエスト用紙に本のタイトルを書いてみるが、獄寺ははたと思った。


「別に普段から来るわけでもねーし」


そうしてくしゃくしゃと紙を丸めてブレザーの内ポケットに強引に突っ込む。
すると、キーンコーンカーンコーン…と図書室内に午前の授業終了のチャイムが鳴り響いた。


「……くそ、もうそんな時間か!」


獄寺は慌てて書棚の奥に隠れようとしたが、そんな時間はもうなかった。
目の前のカウンターに滑り込み、息を潜めて身を縮める。
すると、獄寺が身を隠したと同時に、がちゃり、と扉が開く音がした。







そんなこともあったな、と思いながら、獄寺は今日も今日とて授業をサボり図書室にやって来た。
あれ以来なんだかんだと図書室に通うようになり、なんなら図書委員長とは色々あって顔見知りになってしまった。
本人からは施錠をしてくれれば勝手に入ってかまわないとのお達しもあり、獄寺は興味がない授業をサボる時は目下ここで本を読んだり昼寝を決め込んでいる。

現在1年A組は体育の真っ最中。
来月あるという体育祭の練習だそうで、勿論興味のない獄寺はさっそくここへやってきた。
当たり前のように解錠して忍び込んだ獄寺は、新着図書のコーナーに赴き、そうして目をひん剥いた。

そこには、獄寺が読んでみたいと思っていた”あの本”があった。


「…マジか!」



飛びつくようにして本を引っ張り出し、獄寺はカウンター奥にある定位置…ピンクのもふもふクッションの上に腰かけた。


「やるなアイツ…」


その頭に浮かんだのは、一心不乱に本を検品する彼女の背中。
上機嫌な獄寺は、心の中の彼女に一言激励ともいえる言葉を述べ、やがてその本の一ページ目をめくった。

知識欲が満たされていく興奮に肌が粟立つのを感じながら、獄寺は更にページをめくっていく。


グラウンドから響くわあわあという賑やかな声を聞きながら、獄寺は深く深く、活字の世界へと旅立っていった。




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