06-02


並盛中校舎・3階の図書室・図書カウンター。



ガタガタっ!!


図書委員長の柊美冬は、飛び上がりながらカウンター奥の窓辺から距離をとった。
その際、背後にあった返却処理待ちの本が積みあがった棚にぶつかり、見事にその中身をひっくり返してしまう。バサバサと激しい音を立てれば、静かに読書に耽っていた生徒達が一斉にカウンターの中にいた柊を睨みつける。

すると、音を聞きつけて、返却された本を元の場所に戻していた後輩の図書委員たちが駆けつけてくる。


「委員長、大丈夫ですか?」
「あ…ちょっと虫がいてびっくりしちゃって…すみません」
「委員長がそんな風に驚いてるの、初めて見ましたよ。」
「ご、ごめんなさい」



後輩たちにクスクスと笑われつつも、落とした本を全て拾った柊ははぁ、とため息を吐いた。
柊が図書委員長兼ボクシング部マネージャーに就任して約2か月。
柊は実に平和で有意義な日々を過ごしていた(※一部除く)。


日々、朝5時には笹川とロードワークを行い、登校。
登校後は図書室へ行き、返却された本の整理をしつつ沢田綱吉の登校を観察。
まじめに授業を受けて、昼休みは週2の図書当番の日以外は、すっかり打ち解けた友人たちとお昼ごはんを食べる。
午後の授業が終わったら、図書委員会でカウンター業務をしながら沢田綱吉の下校を確認し、自分は仕事が終わったら帰る。


CEDEFでは昼夜問わずパソコンの前で仕事をして完徹3日もよくある話だったが、すっかりそんな無茶な生活は消え去っていた。むしろ、笹川とのロードワークのおかげか、夜になると自動的に睡魔が襲ってくるようになったため、夜更かしはほとんどしていない。


図書室は柊にとっては天国のような場所だった。
最上階にあるため視界が広く、グラウンドから校門、通学路までばっちり視認することが出来るし、急を要する作業がほとんどないため、追われることもない。
おまけに、過日風紀委員長に土下座をしていた図書委員たちはとても本に愛着があり、この図書室を良くしていこうと必死だった。


(そんな図書委員会を潰して風紀委員会の予算を補填しようだなんて…やっぱりあの人おかしいよなぁ)


ちなみに、そんな風紀委員会からは週に1〜2度お呼び出しがかかる。
日によって業務は違うが、山積の書類整理からお茶汲みまでそれなりに仕事を押し付けられている。
風紀委員長の雲雀は相変わらず何を考えているのかよく分からないが、その下についている草壁という副委員長は実によく出来た男だった。雑務を片付けるために必要な資料はそれとなく用意してくれるし、先日は紅茶を淹れる柊のためにと砂時計を買ってきてくれた。


(ああいう出来る部下が居る組織は、上がどんなに暴虐でも続くんですよねぇ…)



さて、そんなことを考えながら、今日も今日とてカウンター業務の傍ら、沢田綱吉の下校の様子を観察していた柊。
今日も沢田綱吉は獄寺隼人と仲良く下校をしていた。二人は談笑したり、時々獄寺がものすごい勢いで綱吉に話しかけ、綱吉がひいたりしつつも、大変仲良さそうに歩いていた。

途中で二人はグラウンドに逸れて行き、野球部が練習している方に歩み寄っていく。(遠目でも獄寺の顔はそれはそれはおもしろくなさそうに見えた)

綱吉は、最近彼の周りでよく見かける野球部の男子と話をし、楽しそうに笑っている。その後、獄寺がケンカ腰で男子生徒に話しかけ、綱吉が仲裁に入りつつ慌てて獄寺を連れて帰る……という、まさに最近よく見かける一連の流れがあった。

が、その直後だった。
柊は、野球部の男子生徒に視線を辿られてしまった。

慌てて窓から飛びのいた柊は、そのまま後ろの棚にぶつかり本をバサバサと落としてしまったわけである。




一緒に本を拾ってくれた1年生の図書委員に、柊は声をかけた。


「あなた、1年生ですよね。」
「はい。そうですが…」
「あの男の子も、1年生ですよね?」



柊は、声をかけた彼女を窓辺に呼び寄せると、グラウンドでバッティング練習をする男子生徒を指さして聞いた。
すると彼女は、男子生徒を見るなり「先輩知らないんですか?野球部の山本君ですよ!」と興奮したように声をあげる。またしても図書カウンターがうるさい、と読書中の生徒から一斉ににらみが入り、柊がしっと指を立てれば、彼女は自らの両手で口をふさいだ。


「山本武くん。1年生なのに並盛中野球部のエースで、すっごく性格も良くて格好いいんですよ。」
「へぇ…あれが…」
「最近、なんでか沢田君とかと仲いいんですよね。」



(そうか、あれが”あの”山本武か…)




柊が平和な監視ライフを送っていたこの2か月間、綱吉には次々と災厄(?)が降りかかっていた。
家庭教師としてイタリアからヒットマンのリボーンが派遣され、次いで獄寺隼人がやってきて、お次は野球部員・山本武の自殺未遂事件である。

何の因果か、こういった事件が起こる際、柊は必ずと言っていいほどに風紀委員長によって軟禁状態にさせられており、直接現場を目にすることはかなわない。
だが、綱吉の家庭教師であるリボーンが、CEDEFの家光宛てにひとつひとつ報告をあげていたため、巡り巡って、柊の手元に情報が渡り、彼女もそれらの資料に目を通すことでそれらの事件は把握していた。





「なんでほんと沢田君なんだろう……って、委員長ってば、聞いてます?」
「あ、すみません…考え事してました。」
「え、もう!聞いてくださいよ〜!山本君の話!」
「はあ…」



続く彼女の話では、本人の朗らかさも相まって友人がかなり多いらしいことや、実家が寿司屋…などの変哲もない情報が明かされた。


だが、それらの情報に柊は違和感を持っていた。

本当に、ただの野球好きの明るい少年で片づけていいのだろうか?


事務屋とて、まがりなりにも柊美冬はCEDEFの一員である。
潜入と監視の任務が決まってからは、それなりに気配を消す訓練も受けてきた。
急ごしらえで拙い技術とはいえ、そんな自分の視線を、簡単に辿られてしまった。


あれではまるで、どんな僅かな気配をも辿り、仕留めにいくヒットマンのようだ。


たまたま偶然だったのかもしれない。
しかし、もしかしたら綱吉の懐に潜り込み、その命を狙うヒットマン、という可能性もある。
リボーンが傍についているとはいえ、安心は出来ない。
これは、自分がしっかり見守るしかない。



「要経過観察か…」
「……はい?」



思わず口をついて出た柊の言葉に、後輩の女子生徒は首を傾げるばかりだった。



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