05-02
「はぁ!?美冬を日本に送っただぁ!?」
「そうなんだよ。俺も寂しくてな〜」
バジルが淹れた紅茶を啜りながら、ディーノは大声を上げた。
だん、とカップをソーサーに置けば、紅茶が勢いよくぴちゃりと跳ねる。
執務室の円卓には家光、ディーノ、ロマーリオが座っていた。
円卓の周りにはバジルがワゴンと共に控え、空いたカップがあればお茶を継いでいく。
「今まで学校に通わせようともしなかったアンタがそんな決断するって…いったい何なんだよ」
「いやなに、ちょっとした任務なんだ」
そう言いながら家光は10代目候補が殺されていること、自分の息子が10代目候補に挙がっていること、そして美冬に10代目候補である沢田綱吉とその周辺を監視するよう任務を言い渡したことをかいつまんで説明した。
聞けば聞くほどに見目麗しいディーノの顔が厳しさを増していく。
「それ、美冬は危なくないんだろうな」
「ああ、大丈夫さ。アイツはあくまでただの転校生だ。瞳さえ隠せばそこらにいる日本人と大差ない見た目だし、あいつ自身にも目立たずこっそり監視するよう言い含んである。」
家光は知らない。
美冬が意図せずあれよあれよと校内で目立ってしまっているという事実を。
「…あ〜俺の癒しが〜。美冬に会えると思って今日はケーキも買ってきたのによ〜」
「残念だったなボス」
ディーノはだは〜とため息を吐きながらずるずると円卓になだれ落ちる。
ロマーリオはからからと笑いながらバジルを呼んで「これ代わりと言っちゃなんだがおめーが食いな」とケーキ箱を手渡した。
キャバッローネファミリーのボス、ディーノは、彼女がCEDEFに来たばかりの頃からの付き合いだ。
ディーノはこうして毎回お土産を彼女のために持ってきていた。
殆どが「遠慮します」とか「では、ありがたく」など、鬱陶しそうに、かつしょっぱい対応をされてしまうが、彼は長い付き合いで知っていた。
彼女はいつも必ず鬱陶しがるけれど、渡した食べ物は必ず律儀に食べてくれたし、プレゼントしたイヤリングも写真立てもインド土産のガネーシャの置物も、全部彼女は大事に取っておいてくれていた。
表情はあまり変わらない辛辣な彼女だが、根はとてもとても優しいのだ。
可愛い妹。俺の美冬。
毎回そう言って抱き締めては美冬に鬱陶しがられ、ロマーリオは呆れ、家光はよく心折れないな〜、なんて毎回笑っていた。
そんな妹分がまさか単独で日本に任務に行っているとは。
心配が膨れ上がり、ディーノはその場でぶつぶつと独り言を呟く。
「ホントに大丈夫かよ〜。アイツ、大人しそうな顔をして辛辣なこと言うから女子からいじめられたリするんじゃねぇの?そういうのわかってくれる奴がいるならいいけど、転校生って言う立場上そう理解のある奴なんている訳ねーだろ…」
ディーノは知らない。
彼女のクラスの、隣の席の男子が、柊の性根をどことなく理解していることを。
「あああ〜〜心配だぁぁぁ。俺の美冬がぁぁぁ」
金髪イケメンも形無しに、ディーノが涙交じりで呻いた時だった。
「それが案外、大丈夫らしいんだよ。俺も驚いたんだけど。」
ニヤニヤと笑いながらそう宣ったのは、目の前の沢田家光。
がば!とディーノは円卓から顔を上げ、「マジか!」と表情を輝かせた。
「週一で美冬からレポートが上がってくるんだが、部活動に委員会も入って、結構精力的にいろいろやってるみたいだぜ」
「あの美冬がか!?嘘だろ!」
家光はにやりと笑いながら、ディーノに数枚の紙を渡す。
それは、メールを印刷したと思しきものだった。