04-01


うららかな春の日差しが、湿気を帯びてきたと感じるようになったのは、いつの頃からだろうか。
校庭の桜も可憐な花びらを落とし、枝葉には青々とした葉が茂る季節になった。

沢田綱吉にイタリアから家庭教師がやって来て数日。
並盛町には梅雨の気配が感じられるようになってきた。


そして。


「じゃ、あと頼むよ。図書委員長。」
「ええ?これ、風紀の仕事ですよね。私これから図書室で新着図書の検品が…」
「ここでは僕がルールだよ。君に発言権はない。」
「……」


本日の晴れ渡る青空とは裏腹に、並盛中の応接室で柊は盛大なため息をついた。
彼女の目の前に詰まれたのは、高い高い書類の山。
柊が嫌そうな顔をすれば、反比例するかのように、風紀委員長の雲雀恭弥は楽しそうな表情を浮かべる。


「終わるまで帰れないよ。見張りもいるから逃げようなんて思わないこと。じゃあね。」
「え、あ、ちょっと!!」


死刑宣告をした雲雀恭弥は、さっさとその場を出て行ってしまった。
ひき止めむなしく、柊は大量の書類とともに応接室に取り残されてしまう。


「諦めてやるしかないぞ」


見張り、こと風紀副委員長の草壁は、彼女に忠告する。
柊はしぶしぶ席について書類の山を見上げた。

曰く、「部活動予算を10%削って校舎の修繕費を賄え」とのこと。
春先、既にどこの部活動も、風紀委員会によって予算を削り取られた後である。
これ以上予算を削ったら廃部、という部もちらほら見受けられるが風紀委員会としては知ったことではないらしい。
それよりも、近頃増えつつある校舎の修繕費を賄うことの方が重要だという。

どうしてたかだか中学校のイチ委員会風情がこんなことをやらなければいけないのか、という問いは、既に愚問だと柊もよく分かっていた。

これが、並盛中の風紀委員会のお仕事、なのである。
日々起こる生徒同士のトラブルから、この学校の運営、並盛町のありとあらゆるナワバリの取り仕切り、とにかく何から何まで、全てをこの委員会は背負っていた。



とはいえ、そもそも柊は図書委員会であって風紀委員会ではない。
風紀委員会のために仕事をする理由など、一切ない。


だが。


(この修繕費って、間違いなく……綱吉君ですよね……)


本来の任務・沢田綱吉の監視をしていた柊は、知っていた。
雲雀が頭を痛めている修繕費の原因が、沢田綱吉であることを。

彼の家庭教師リボーンがやってきて数日。
リボーンによって死ぬ気弾を撃たれるたびに、沢田綱吉は事件(?)を起こしていた。
撃たれた本人は死ぬ気だったとはいえ、校舎はそれなりに損傷していたのを柊も目撃している。
その度に漠然と"修繕費用大変だな…"とは思っていたが、まさかそれを自分が賄う羽目になろうとは。


(身内の尻拭いは、身内がやるべき、か)


綱吉自身は否定しているが、彼はボンゴレ10代目候補に違いない。
そんなボンゴレの露払いを行うのも、本来的にはCEDEFの業務である。
ならば。


この仕事は風紀委員会の手伝いとしてではなく、CEDEFとして取り組む仕事である。



そう気持ちを切り替えた柊は、鞄からごそごそとペンケースを取り出した。



「じゃあ、2時間で終わらせましょうか」
「いや、無理だろう」
「分からないですよ」



CEDEFの事務屋の底力、舐めないで下さい。

そう口にこそ出さなかったが、彼女は不敵に、ニヤリと笑った。
草壁は、胡散臭そうに彼女を見下ろした。



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