03-01


いったいあの入学式の日に、彼は何を感じ取ったのだろうかと思う。



朝。

「お前の奥底に眠る闘志を俺は理解している!転校生よ、お前にピッタリなスポーツがある。そう、ボクシングだ!というわけでボクシング部に…」
「入りません。」


昼。

「その鋭い眼差しは相手を射殺すのにピッタリだ!そう、お前こそボクシングにふさわしい!どうだ、ボクシング部に…」
「入りません。失礼な。」


下校時。

「あの冷静な状況判断力は見事だった。風紀委員会から逃げ遂せた手口も鮮やかだった。そうだ、その長所をボクシングで更に伸ばしてみないか!?」
「入りません。褒められてる気が全くしません。」




何故か、この2週間柊は笹川によって熱烈な勧誘を受けていた。
ボクシングで得た精神力と忍耐力のおかげだろうか。
笹川了平はいくら彼女が断ろうとも、尚のこと彼女にしつこく食らいついてきた。

先程のやりとりも日々ほぼ定時で行われている。
クラスメイトたちも見慣れたもので「あーまたやってる」「笹川懲りないねぇ」「柊さんドンマイ!」と生ぬるく見守る次第だ。
朝、登校すれば話しかけられ、昼休みは食事を中断され、綱吉の下校を監視するために移動しようとすれば足止めされる始末。


沢田綱吉の登校や下校を監視しようとしても、このやり取りをしているうちに沢田綱吉が登校してしまったり、下校してしまったりの繰り返し。
まるで柊の任務遂行を邪魔するのが目的ではないのか、というほどの勢いで笹川は柊の前に現れていた。



その日の昼休みも、笹川は昼食を食べる柊の横に立ち、いつものように「俺と一緒にボクシングで世界を目指そうではないか!」と宣ってきた。
すっかり仲良くなった前の席の女子生徒と一緒に昼食を食べていた柊は「嫌です」とそつなく返し、女子生徒は「ホントしつこいわね」と笹川を手ではらう。


「俺はこんなことではあきらめんからな転校生!!じゃあ俺はトレーニングに行ってくる!!」
「はいはい、いってらっしゃい」
「うおおおお!!」


そう言って彼は全速力で教室を飛び出していった。
(直後に女子生徒の悲鳴と「廊下は走るなと言っているだろうが笹川ァァ!」と誰かの怒鳴り声が聞こえてきた。どんな速度で飛び出していったんだ)


「毎日毎日、笹川君は諦めませんねぇ。っていうかいつになったら名前覚えてくれるんだろ」
「ていうか柊さんもばっさり斬るよねぇ〜」
「なんか、あれくらい言っても良いかなと思って」
「確かに」


からからと一緒にご飯を食べていた女子生徒は笑い声をあげ、柊もつられて笑う。
なんだかんだと笹川のおかげで話題に事欠かない柊は、上手いこととり繕う必要もなく教室の空気に溶け込むことが出来ていた。
本来はもう少し目立たず過ごしたかったところであるが、この2週間でその辺は諦めの境地に達していた。



「まあ、あれは病気みたいなもんだから。次の生贄が現れたら開放されるから頑張って」
「いけにえ、」
「大体いつも3ヶ月スパンで現れるから。あと2ヶ月ってとこね」
「あと2ヶ月とか困るんですけど…」


呻きながら机になだれ行く柊に、女子生徒は同情の眼差しをむけながら、よしよしとその頭を撫でた。
たまたま柊の席の近くを通った男子生徒も、去り際に「ご愁傷様〜」と気軽に言葉を投げる。


「もう…笹川君に勧誘されればいいんですよ皆…」
「あ、俺はもう勧誘され済だから」
「え!どうやってあの猛攻を回避したんですか」
「他の部活や委員会に入ればいいんだって。俺は放送委員会に入ったぜー」


じゃあ俺、委員会活動あるから。
ひらりと手を振って去っていく男子生徒を見送った柊は「それだ…!」と啓示を受けたかのように目を煌かせた。


(私も、どこかの部活か委員会に入ればいいんだ)



こうして、柊は放課後に委員会と部活動めぐりをすることになったのである。


沢田綱吉の監視への道のりは、遠い。








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