02-05


「ボクシング部にぃぃぃ!!!!入らないかぁぁぁぁぁ!!!」



新入生がたまりにたまる、クラス分けが張り出された掲示板の前。
笹川の第一声は、間違いなくそこにいた新入生たち全員の耳に届いたのだろう、いっせいに白い眼差しが笹川に向けられる。

そして柊はといえば、「ボクシング部、新入部員募集中」と書かれたクロッキー帖を持たされ、笹川の横に立っていた。


(・・・は、恥ずかしい!!!)


なんだこの羞恥プレイは。
新入生たちの白い眼差しを受け、柊はクロッキー帖で思わず顔を隠す。
自分は沢田綱吉の監視に任務で潜入しているはずなのに。
沢田綱吉の身の安全を確保し、必要であればCEDEFと連絡を取りながら邪魔者を排除しなければいけないはずなのに。

なぜ、妙に達筆な筆文字で書かれたボクシング部勧誘看板を持って、この場に立たされているのか。
そんな柊の困惑を他所に、笹川は謎の演説を続けた。


「例えばお前!!進学を機に新たな自分になりたい!そう思ったことはないか!?」
「え、俺?!」


ビシィ!と指をさされた茶髪の男子生徒に視線が集まる。
オシャレに制服を着崩そうとしているが、イマイチなりきれていない。
「わ、あれ○○くんじゃない?似合わな〜…」「中学デビューのつもりかよウケる」
ひそひそと上がる声に、男子生徒はこの世の絶望を集めたかのような表情を浮かべた。


(もうやめてあげて!!)



「たとえばお前!!より強い精神を手に入れたくは無いか!?」
「はぁ!?私女なんだけど!?」
「大丈夫だ、女でもボクシングは出来る。お前は既に強靭な肉体は持っているから、そこに精神の強さが伴えば史上最強の女になれるぞ!!!」


指差された女子生徒は、確かに他の新入生に比べ遥かに強そうなことに違いは無い。
しかしまぁ、なんというか言葉を選ぶべきである。
女子生徒は笹川に汚い言葉を投げつけてその場を去って行った。


(あたりまえですね…)



「人生は勉強だけじゃないぞ!ボクシングで輝かしい青春を一緒に楽しまないか!」
「おしゃれは後になっても出来る!しかしボクシングは今しか出来ない!」
「強靭な肉体を作ることで、明るい道が拓けるぞ!!」


ドン引きする新入生たちは徐々に笹川の周りから後退して行き、彼の周りにはエアポケットが出来上がっていく。


「そこのお前、どうだ!?ボクシング部に入部すれば…」
「笹川君、そこまで!」


柊は持たされていたクロッキーでべしり、と笹川の頭を引っ叩いた。
笹川は「なぜだ!」と文句をたれるが、柊は新入生たちを掻き分けてやってくる、明らかに新入生とは違う”黒服の一団”を見るよう促した。


「……あれ、お知り合いじゃないですよね」
「まずい。ずらかるぞ!」
「え」


明らかに不穏な空気をかもし出しながら近づいてくる黒服の一団。
彼らが何者かは柊には分からない。だが、纏っている空気からはとてつもなく嫌な予感がする。

彼らを認識した笹川も、それまでの熱意ありすぎる演説をあっさりと取り止めるとさっさとその場から逃げ出した。



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