19-05


「ただいまー」


帰宅した山本ががらがら、と店の入り口の扉を開けると、途端にパァン!という破裂音が鳴った。音と共に、はらはらと紙のリボンや細切れになった金銀の紙が辺りに舞う。


「山本、お誕生日おめでとー!!」


そこには、沢田綱吉、リボーン、笹川了平、笹川京子、三浦ハル、フゥ太、ビアンキ、ランボ、イーピン、…おまけで不機嫌そうな獄寺が勢ぞろいしていた。山本は突然の出来事でしばらくぽかん、としていたが、状況を飲み込んだとたんに頬が緩んだ。


「お…おおっ!!みんな、サンキュな!!」


卓には寿司をはじめとしたオードブルが用意されており、その上には金色のくす玉。
ランボとイーピン、フゥ太に誘われるがままに垂れていた紐を引けば、「おたんじょうびおめでとう」という可愛らしい文字が現れた。


「ランボさんがつくったんだぞ」「〇△◎×♪!!」
「僕が字を書いて、ランボとイーピンは紙吹雪作ったんだ。すごいでしょ」
「お〜すげーな。ありがとな。」


幼い子ども3人に思わず目尻を緩めると、「今日は貸し切りだ!たんと食いな!」という父親の豪気な声が店に響き、面々は「イェーイ!!」と盛り上がる。厨房ではハルや京子がちらし寿司づくりの手伝いをしていて、父親も「娘がいたらこんな感じだろうか」と涙ぐんでいた。


何ともにぎやかな様子に顔を綻ばせると、綱吉がおずおずと頬をかきながら山本の前に進み出る。


「実はさ、帰りに山本の荷物を運んできたら、山本のおじさんと話してるうちにここんなことになっちゃって……驚いた?」
「めちゃめちゃ驚いたぜ!ツナ、みんなありがとな!!」


嬉しさのあまり綱吉の肩を組めば、綱吉は照れたように「よかった」と笑った。もちろんそれが面白くない獄寺は、横からガンを飛ばしてきた。実にご機嫌はよろしくない様子である。


「おせーよ!!いつまで10代目をお待たせしやがるんだテメェ!」
「わりー、教室まで荷物取りに戻ってたらこんな時間になっちまって…」
「獄寺君、いいからいいから……って、山本?」


突っかかってきた獄寺を抑えていた綱吉が、首を傾げた。


「ん?」
「……いや、なんか……元気ない?」



声をかけた綱吉も確信は持てていないようで、あまりのふわふわした発言に、なんだそりゃ、と山本は苦笑した。獄寺は「こんな奴のこと気にする必要はありません」と山本をねめつけるも、突然横からビアンキがぬっとしゃしゃり出てきたために、獄寺は泡を吹いて卒倒した。


「ギャー!!獄寺君!!!」
「さよなら…10代目…」
「ガハハハー!獄寺ってば弱っちィもんね!!」


慌てた綱吉がみっともない悲鳴を上げると、ランボがやってきてここぞとばかりに獄寺をつつく。獄寺は白目を剥いていて一向に目覚める気配はない…まるで喜劇である。そんな3人を余所に、ビアンキは山本に相対するとにっこり笑った。






「山本武、恋をしてるのね」







一瞬、辺りが水を打ったように静まり返った。

ガシャァァァン!!という音と共に、剛が皿を盛大に割った音が店にこだまする。

空白ののち、全員はっとして山本の顔を見つめる。


「えっ」
「なっ」
「きゃっ」
「はひっ」
「武兄、好きな人いるの!?」
「〇☆×◎▽♪!!」
「こいってなに?魚だもんね?」


各々の反応は実に個性豊かだった。
集まる視線に、山本はぽりぽりと頬をかきながら明後日の方向に視線を逸らす。


「……いやぁ、はは…どーかな」


否定はしない。それ即ち、肯定である。
ぽう、と頬を染めてからっと笑う山本に、全員がその事実に行き着けば、会場は突如ヒートアップを見せた。きゃあああ!!!という女子の悲鳴があがり、誕生日パーティどころではない大騒ぎである。


「い、一体どんな方なのでしょうか!!」
「さあなあ」
「片思い?それとももう付き合ってるの?」
「いやいや」
「白状なさい山本武。逃げられると思ってるの」
「女子こええ」
「ねー山本こいってなに?さかな?」
「そーなのな!」
「話逸らさないで!武兄!僕にも教えて!」
「えー」

女子(と子供たち)に詰問される山本、それをはわはわと見守る沢田綱吉、倒れたままの獄寺。


……そんな賑やかな一行を横目に、笹川は料理をひたすらかき込んでいた。その横ではリボーンが象の被り物をして「パオパオ老師スタイル」でミルクを啜る。ふと、ぎゃあぎゃあ騒ぐ一行の様子に気が付いた笹川は、料理に手を伸ばすのをやめ、首を傾げた。


「…?みんな何の話をしておるのだ?」
「さあな。まぁお前は食っておけ。強靭な肉体づくりには一流の食材が必要だぞ。これはいわば食のトレーニングだ。」
「おう!!そうだな!!」


何故ここでトレーニングを行うのか。生憎とツッコミ要員は全員山本の恋にかかりきりなので、誰からの言及もない。むしゃむしゃとひたすら寿司を貪る笹川の横で、リボーンの黒い瞳は山本を捉えていた。



「茨の道を敢えて進むのか」



事の顛末を憂いた言葉は、さめざめとしていた。



「まあオメーらしいっちゃ、らしいがな」





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