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==DAY4==

――一方、沢田綱吉らは9代目の要請を受け黒曜ヘルシーランドに乗り込み、事態の解決に動く。柊美冬は六道骸と対面し、その後雲雀恭弥と同じ地下牢に閉じ込められるも、獄寺隼人の機転により脱出し、――


「うーん…」
「どうした?」

美冬の手が止まる。彼女は首を傾げ、宙を睨みつけていた。

「私、このあたりの記憶が朧げなんですよね…」
「……そうなのか?」
「六道骸と対面した後の記憶がかなり途切れ途切れといいますか。地下で雲雀先輩や獄寺君と会ったのははっきり覚えているのですが。最後に私を助けてくださったのは、ディーノさんたちなんですよね?」
「まあな。俺達はCEDEFから要請があって、お前の救出に動いてた。」

そうは答えたものの、ディーノとロマーリオは目配せをしながら逡巡する。あの時の出来事を、彼女にどのように説明するべきだろう。二人が駆け付けた時、美冬は自分の足で建物から逃げ出してきたが、彼女自身はそれを覚えていないといった。

あの時、ディーノは見た。
美冬の顔をした何かが、青空を瞳に映して、笑ったのを。

あれがおそらく、沢田家光が言っていた―――

「お嬢は自分で建物から逃げ出してきたんだぜ?」
「それ本当ですか?私があの場から自力で?」
「日本語で言うところの“火事場の馬鹿力”ってやつかもな。」

美冬は自らの慎重さや運動神経のなさをよくわかっている。だからこそ、己があの場から自力で逃げ出したことに疑念を抱いている様子だ。ロマーリオは、事実とそれらしい憶測を織り交ぜながら慎重に言葉を紡ぐ。
なにせ、彼女にはまだ事実を伏せて欲しい、と彼女の“管理者”から口止めされているからだ。

「俺もよくあるよ。ギリギリの時の記憶ってのは実際に起こったことと違ってたり、後になると思い出せなかったりするもんだ。」
「うーん確かに。あんな命の危機を感じたのは人生で初めてでした。」

命を懸けた死闘を潜り抜けてきたキャバッローネファミリーのボスの言葉には、やはり重みがあった。美冬の中では腑に落ちたようで、「もしやあれが笹川君が言う極限というやつなのでしょうか…」などと呟きながら再び報告書作成に没頭し始める。


極限かどうかはさておき、あれが本当に、火事場の馬鹿力だったら、どんなによかったか。ディーノは愛しい妹分の背中を見つめながら、彼女に気づかれないようそっとため息を吐いた。







==DAY5==

――結果的に、沢田綱吉は六道骸を倒し、六道骸と部下数名は再び牢獄へと送還される。沢田綱吉達一派も無事ではなく、獄寺隼人・雲雀恭弥・ビアンキは重傷、山本武・ランキングフゥ太は軽傷ではあるが精密検査のため指定病院へ運ばれることとなった。事件発生から短期間での解決には至ったものの、民間人の犠牲は多かったことから、沢田綱吉だけではなく、並盛町の監視体制についていっそうの強化が必要と考えられる。――


「お、終わった〜〜!!」

まるで夏休みの宿題を終えた中学生かのような仕草だった。
美冬は両の手を万歳しながら背筋を伸ばした。その背には開放感が滲み、年相応の少女のようだとロマーリオはついつい笑ってしまう。

「わ、笑わないでください。」
「いや、つい、な。そうしてるとフツーの中学生みたいだぜ。」
「これでも最近は普通の中学生です」

そう思っているのは本人ばかりなり。
ロマーリオが内心そんなことを呟くと、美冬は室内を見まわして、ディーノの不在に気が付いた。

「…そういえば、ディーノさんは?」
「別室で会議中だ。ちょっと厄介事がな。」
「え。」
「現場はきちんと対応できてるから余計な心配はいらねーぜ。」
「……」

いくらキャバッローネが中規模ファミリーとはいえ、ボスが1週間以上も本部を空けているこの事態は、やはり異常である。この数日、ディーノは律義に美冬の面倒を見てはいたが、やはり負担は現場にのしかかっているのではないか。

そもそも、彼らはたまたま日本にやって来ていたところに、沢田家光からの強引な依頼を受けさせられて、こちらに長期滞在せざるを得なくなったわけで。

・・・それまで、自身の怪我と報告書作成のために埋まっていた脳内リソースが空いた分、ふとこの状況を俯瞰した美冬はすさまじい罪悪感に見舞われた。

「私のせいでご迷惑をおかけしてすみません…。」
「いやいや、こちらはちゃんとお宅の上司と契約したうえで金も貰ってるから気にすんなって。」
「幸い報告書作成も終わりましたし、私もほとんど一人で動けるようになりました。お二人はファミリーの下へ帰ってあげてください。きっとお仕事も溜まっているんですよね?」

へにゃり、と眉尻を下げた美冬に、ロマーリオは苦笑した。
美冬の保護に際してキャバッローネがCEDEFから得たのは、実は膨大な金だけでない。様々な情報や融通も引き換えにした、“かなり良い条件”を提示されたのだ。決してキャバッローネだけが損をするような内容ではないのだ。……それを彼女は知らないが。

とはいえ、実際のところキャバッローネの現場も手一杯であるという報告は受けている。

「まあ、ウチの本部からの報告じゃあ、ボスの決済を待ってる書類が山積みどころか廊下まで続いているらしいからなぁ。」
「!?」

美冬は以前、図書室で書類のピラミッドを作ったことはあったが、廊下まで続くほどの大量の書類なんて想像もつかない。CEDEFはおろか、決算前の風紀委員会でさえ見たことがない。

「お言葉に甘えて、さっそく明日には出発させてもらうとするかな。」
「はい、親方様とオレガノには報告書の提出がてら私からお伝えしておきます。」

かくして、ディーノの意見を一切聞くこともなく、キャバッローネの二人は、明朝早々に並盛を出立することになった。勿論、自身がいない間に出立を勝手に決められたディーノが、後ほど盛大に拗ねてしまったのは言うまでもない。


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