「あ? お前、何言ってやがる」


 爬虫類のような怖い目でキレられたところで、怯えるおれでもない。なんつーかね、慣れたよおれは。怒られ慣れたっていうのは問題だらけだけどな……。
 今回オーナーが怒っている理由は簡単だ。クリスマスの予定が合わない、である。おれもオーナーもイヴには仕事が入っていて、おれは次の日友人たちと遊びに行く予定が入っている。しかし、だ。よく考えてみて欲しい。仕事とはすなわちオーナーの店、バロックワークスでのバイトである。勿論そのシフトを入れたのはオーナーだ。朝から夜中まできっちりな。クリスマスだっていうのにうちのファミレスは混むからなァ、高級志向だから普段もっと安いとこで食べてる子たちがこっち来るんで当然っちゃあ当然なんだけど。


「シフト入れられるときに言ったじゃないですか、二十五日は予定入ってるんで無理だって」

「……たしかに、言ってたが」


 歯切れの悪い言葉を発しているところを見るにオーナーはしっかり覚えているようだ。その上でおれとの予定を組めると思っていたのかこの人は……。ん? もしかして……。


「オーナー、おれの言った予定がオーナーとの予定だと思ったんですか?」


 恋人同士なんだしクリスマスに会うこと自体はそんなに珍しいことではない、というか一般的だろう。おれはあんまりイベント気にしないし、オーナーにとってもバイトに入れと言われた時点で稼ぎどきなんだなァくらいにしか思っていなかったんだが、──言葉に詰まって目をそらしたのでオーナーは二十五日は開けておくつもりだったんだろう。
 いや、嬉しいんだけどね。なんだわかってんじゃねェかって感じでワクワクしててくれたなら異様なまでに嬉しいんだけどね?


「もしそうならあらかじめ誘っておきますって……」


 おれはともかくオーナーは都合のつかない日だってある。口約束すらなしに暗黙の了解として一緒にいられるほどオーナーが暇じゃないのはわかっている。だからそんなことはしないのだ。オーナーだってそんなことわかっているだろうに、ああもう、可愛いなァ。
 そう思ったのが顔に出たのだろう、オーナーは「うるせェ」となんとも言えぬ暴言を吐いて完全に違う方向を向いてしまった。そういうとこ本当に可愛いんだよなァ、ずるいよなァ。


「オーナー、イヴの上がり何時でしたっけ」

「二時だろ」

「おれのじゃなくて、オーナーの」

「……一時には終わる」

「じゃあ一時間、おれのこと待っててください。そんで一緒に帰りましょう。次の日の出は?」

「夕方に一回顔出すだけだ」

「ならその時間まで一緒にいましょう。おれ、夜から遊びに行く予定なんで」


 おれが夜遊びをすることが気に食わないのか、オーナーはいい顔をしなかったがそれでもうなずいた。確認を取らなかった自分が悪いと思っているんだろうし、おれが友だちの約束を切り捨てるようなことをしないというのもわかっているんだろう。頭の回転が早くて何よりである。


「あ、じゃあゴム買っときますね。クリスマスってことでいちご味とかにします?」


 クリスマスに会った恋人がすることなんてひとつだろう。そういえば最後に使ったときゴムあと二、三個しかなかったな、そのあと買ってねェや。そんなふうに即物的なことを考えてしまったおれに対し、オーナーは何度かゆっくりと瞬きをして、それから鼻で笑った。


「コンドームに味なんかいるか、薄いのにしとけ」

「はーい」


 いつもの余裕の表情に戻ったオーナーは、やっぱり格好いいなァと思ったが言ってることがなんだかちぐはぐで笑ってしまった。

[バイトさんの1日]Ifの主くんとクロコダイルでクリスマスの予定を無理矢理あわせるお話@匿名さん
リクエストありがとうございました!


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