「ここ違うぞ」


 とんとんと叩かれたのは、おれの書き込んでいたノートに書かれた文字だった。どうやら意味が違うということらしい。顔を上げれば空で説明してくれるのだからオーナーの頭の中にはその全てが入っているのだろう。ふんふんと話を聞きながら訂正し、勉強を続ける。
 オーナーの家で何故勉強しているのかというと、オーナーが暇なら資格を取れとおれに色々と渡してきたのである。ちなみにソムリエの資格だ。これがなんの役に立つんだろうと思っていなくもないが、うちは普通のファミレスとは違うので使わないわけでもない。でもこの先使うことあるかな……。


「飯できたぞ」

「あ、はい。今行きます〜」


 振り返るとすでに食事の準備が整っていた。うちのシェフには劣るだろうが、オーナーの腕前も大したもので店に出しても問題なさそうだと勝手に思っている。まあでも他人が作ったものって基本的に美味しいし、そのせいもあるかもしれない。


「いただきます」


 手を合わせて食事を始める。今日の夜ごはんは和食だった。一口食べただけでもかなりうまい。口が緩み、「美味しいです」と告げると「そりゃあよかったな」とオーナーも口を緩めてくれた。他愛もないことを話しながら食事を終え、勉強に戻ろうかというとき、ふと思い出したことがあった。


「そういやこれっていつ試験ですか?」

「八月に筆記、十月に実技」

「え?」


 今は十一月である。ということは来年受けるということだ。ちなみにおれは今年大学三年。来年は間違いなく就活がある。試験受けてる場合じゃなくね? それともさっさと就活終わらせてから試験受けろって言ってんのかな。首をかしげながら考えていたら、オーナーは予想もしていなかったことを口にした。


「絶対に落とすんじゃねェぞ」

「えっ、そんなに重要なんですか」

「うちに正式採用するまでに取っとけば基本給上乗せしてやる」


 あ、オーナーの中ではおれが他に就職する可能性が一切ないんだ……。それ職権乱用って言うんじゃとか一応他の職についても考えてみたいんだけどとか色んなことを思ったが、オーナーにここまでお膳立てされてしまうと信用されてるみたいでなんだか嬉しくなってきてしまって、就活しなくていいんだからいいかと前向きに考えることにした。


「じゃあおれ頑張りますね!」

「おう」


 そう言いながら新聞に目を落としたオーナーがしたり顔で笑っていたことなんてまるで気がつきもせず。

「バイトさんの1日」if番外編の主とクロコダイルで、クロコダイルが主に対して何かをリードする話@匿名さん
これは リードとは 言わない かもしれない。リクエストありがとうございました!



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