とある港町にキッド海賊団が立ち寄ったのは、ただの補給のためだった。けれども悪名高い海賊が現れたとなっては町の人間はびくびくと身を縮こませるばかりで、それがかえってキッドに油を注ぐ形となった。補給だと言っているのにもかかわらず、無謀と無茶を蛮勇と勘違いした町人がキッドたちに出て行けと食ってかかった。
 目障りなものを片付けることは、キッドにとってなんらいつもと変わりのない光景の一つである。
 能力を使って簡単にその男を処罰した。とは言ってもさほど機嫌の悪かったわけでもないキッドは、一応のところ手加減をしてやったため骨折程度で済むだろう。しかしながら気絶もしなかった男が痛い痛いとぴいぴいわめく声がひどく耳に触った。その不快な声を止めるためにやるべきことはたった一つである。
 つかつかと近寄ったキッドは、目の前の男に向かって銃を抜いた。こうすれば静かになる。自分の夢を笑ったわけではなかったが、その男の声はひどく耳に残り、己の頭痛を引き起こしそうなほどだった。だから殺す。単純な思考の生んだ答え。
「まちなされ」
 引き金を引くよりもほんのすこし早く、老婆がそう声をかけた。キッドとて全く聞き分けのない子供というわけでもなく、引き金に手をかけたまま、ちらりと老婆に視線を向けた。
「なんだババア。テメェが殺されてェのか?」
 いえいえまさかと老婆は笑う。この場にふさわしくない空気を醸し出す老婆に、キッドだけではなくほかの船員も警戒した。弱そうに見える老婆が強大な能力者ということだってこの海では珍しい話ではない。警戒を怠らないキッドたちに、老婆は唇を釣り上げてわらった。


「あんた、よくない“そう”がでてるよ」


 その言葉のあと、キッドの意識は急激に混濁した。ぐるぐると視界が回り、強烈な吐き気に襲われる。立っていられないほどの何かがキッドに降りかかり、そして──。

mae:tsugi

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