打ち合う音。軋み歪む肉。息が上がるのはいつぶりだろうか。汗が流れ落ちていく。どうにか決定的な一撃は受けていないが、避けきれなかったかすり傷は増えていく。だがそれはお互い様だ。男の顔や服にも小さな傷はできている。血も滲んでいるが大した傷ではない。自分たちよりもよほど大変なことになっているのが、周りだった。木は薙ぎ倒され、地面は抉れ、瓦礫は崩れ去り、ヒヒたちは逃げ惑っている。

「楽しいか、強き者よ」

 何を言われているか理解できない。楽しい、これが? 武器を振り回し、刃をぶつけ合い、命を賭け、決着がつかずに拮抗している状態が?
 目を細めれば、男も同じように目を細めた。まるで笑っているように見えた。その顔を狙うように刃を向け切り上げれば、避け損ねた帽子がすっぱりと切れた。オールバックにしていた髪が晒される。男は実に楽しげに笑みを作った。

「ああ、おれも楽しいぞ」

 男が刀を振るう。受け止めようとして受け止めきれずに身体ごと飛ばされる。着地と同時に狙ってきていた刀を弾き、間を詰める。──たしかにこれは楽しんでいると思われても仕方がない。男の眼に映る自分は、歯を見せるようにして笑っていた。


 そうか、楽しいってこういうことなのか。



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