死んだ! 生まれた! おぎゃあ!

 ってなもんで現代から現代へ転生したおれは、なんだ、魔法と剣のファンタジー成り上がり転生ものじゃないのかとすこしがっかりしたものの、よくよく考えると命かけたりしたくないので別にこの方がよかったんじゃないかと気が付いた。

 ちなみに転生していいこともあった。転生をした後の顔がイケメンすぎる。なんだこのイケメンフェイスは……。マジで嬉しいよね。まあ、東欧系だから日本人的感性でイケメンだと思うだけで、日本人顔にしたら前世のおれにそこまで遠くはなさそうである。顔が濃くなるってすごいんだな。
 それから、名前がミホーク・ジュラキュール。笑ったわ、これジュラキュール・ミホークやろ! 現代日本でなんでそんな有名漫画のキャラクターの名前をつけられなきゃいけないんですか? DQNネームってやつ?
 そんな気持ちでいたんですけど、調べたそもそも原作漫画がねえんだわ。偶然の一致でした。おれ的にはちょっと変わった名前だったけど、両親が日本在住の東欧系日本人なだけだったのである。

 ……と平穏な時期がおれにもありましたよ、中学生くらいまではな。

 高校の初日にどうやら何かおかしいということに気が付いた。走りこんできた赤毛の外国人……まあ、インターナショナルスクールなので別におかしいことはないし、おれも日本人から見たら外国人なんだが、そいつがおれの顔を見るなり、いきなり満面のそりゃあこれ以上ないほどに喜んでますって顔でおれを呼んだわけよ。


「ミホーク!! 会いたかった!!」

「は? ……人違いでは?」


 なんでこいつおれの名前を知ってるんだ、みたいな、そこそこ冷たい顔で赤毛を見たわけだ。そうしたら、赤毛は固まって、何も言わなくなってしまって、これ無視していいかな?と思っていたら、そのまま泣き出したのである。


「……うわ」


 そしておれもつい、ドン引いた声を出してしまったもんだから、相手は号泣してしまった。周りからはおれが泣かせたって感じでひそひそ話される始末。なんでやねん……。おれが何したってんだ。


「おい、とりあえずこっちへ来い。座れ」

「うっ……うう……」


 道のど真ん中で泣いていると目立つため、赤毛を誘導して階段の端に座らせた。まあ、もう遅いんだけどね……。
 とりあえず集合時間まではまだ時間があるため、赤毛から話を聞きだしたところ、おそらく彼はワンピースの世界から現代日本に転生したようだった。転生している記憶があるんなら、そらジュラキュール・ミホークと同じ名前だから勘違いされることもあるかもしんないけどさ、おれは君の知っているジュラキュール・ミホークじゃねえんだわ。
 名前一緒なだけの他人だよ! カラーリングが近くて、顔の造形ももしかしたら近いのかもしれないけど、他人! 他人なんだよ! ということを簡潔に説明することにした。


「人違いだ。他をあたれ」


 言い方が端的かつきつすぎて、更に赤毛の号泣は加速した。……こういってはなんだがな、おれは元日本人のくせに日本語が苦手だ! 英語もあんまりだ! どっちも文章だとめっちゃ丁寧に書けるけど、おれはハンガリー語がネイティブなのである。両親ともにハンガリー人だからなぁ! 日本語は聞き取れるし、読めるし、書けるけど、うまく話せねえんですわ! 発語が悪くて最早話すのあきらめちゃったよね! ちなみにハンガリー語ネイティブ相手だとおれはめちゃくちゃしゃべるよ!
 そうこうしていたら、赤毛の友人たちが集まってきて、口々に鷹の目だの、ミホークだの言ってくる。原作鷹の目と知り合いっぺぇ〜……。誰よ、誰なのよ、君たち。


「おい、お頭。感動で泣いている……わけじゃねェな?」

「ミ、ミホークの記憶が……ねェ、みたいで……」

「! 本当か、鷹の目」


 おれは鷹の目じゃねえわ。そんな中二病の権化みたいな恥ずかしい二つ名を現代日本で呼ぶのはやめて! もう高校生でしょ! とは、言えない。おれの語学スキル的にではなく、おれの口が回らないので言えない。
 ていうか、赤毛のことお頭って呼んだ? 何、海賊のキャプテン枠か? いやほんと誰だよ。赤毛のキャラ……? 誰だよ……。正直表紙の思い出よりも漫画の白黒のイメージしかないから覚えてないんだよ。


「……まず名乗ってもらえないか。あと鷹の目と呼ぶのはやめてくれ。それはおれの名称ではない」


 もしおれが本当に君たちの知るジュラキュール・ミホークだとしても嫌がったと思いますけどね! 現代日本ではだっせェから! 恥ずかしいから! 
 おれが名乗りを求めたことから、記憶がないという説明に納得してくれたみたいで、みんな顔を真っ青にさせている。本当は記憶がないんじゃなくて他人なんですけどね!? 本当に間違い、人違いだよ!?
 顔色を悪くしたまま、それでも懸命に笑顔を作って、赤毛が言った。


「……シャンクス、おれはシャンクスだ」


 シャンクス? シャンクスって言った? ……うわちょっと待てマジか!!?? お前がシャンクス!!!???? 赤毛でキャプテン枠だなそりゃ!!?? いやお前うっそだろ!?!? カワイイ系じゃねえか!!??? 言われてみればたしかに原作でもなんかミホークとシャンクスって交流あったっぽい描写あった気がするけど、えっ!?!? 泣くほど!??! 号泣するほど仲良かったんですかねえ!!!???

 おれが内心で大発狂している間に、その仲間たちも名前を教えてくれた。ベックマンだのルゥだのヤソップだの……いや待てオールスター……赤髪海賊団オールスターやないかい!!

 これ以上驚くことって早々ないだろうくらい初日から驚かされてしまったが、たぶん顔には出なかったと思う。表情筋がほぼほぼ死んでいるのは、父親からの遺伝である。
 驚いたことがバレると話が余計ややこしくなると思うんだよね。やっぱり名前に聞き覚えあるんじゃねえか、みたいな。違う前世なんだよ。でもそれを説明するほどの仲でもないし、まわりまわって親に知られるようなことはごめんだった。前世の記憶がある息子は嫌でしょ。
 なのでおれはいたって冷静に、感情を表情に出さないように努めながら、彼らの目を見て言った。


「おれの名はたしかにミホークだ。ミホーク・ジュラキュールという」

「やっぱり、っ」

「期待させたようで悪いが、おれはお前たちとは初対面の人間だ」


 シャンクスは、目を見開いて、それからうつむいてしまった。うつむく前に見えた目の周りは、とんでもなく真っ赤だった。おれは何にも悪いことをしていないはずなのに、罪悪感が湧き上がる。
 誰も何も言えなくなった嫌な沈黙の中、シャンクスがいきおいよく顔を上げて、にっかりと笑って見せる。初めて会った相手なのに、無理をして笑っているのが分かって痛々しかった。このシャンクスにとって“鷹の目”のミホークは大切な存在だったということだ。


「ああ、そうだな、何回もそう言ってたのに、悪ィな」

「いや、わかってくれればいい。……その、お前らの言う鷹の目とやらが見つかることを祈る」

「……ありがとな」


 礼を言ってきたシャンクスの声は明らかに震えていた。……余計なことを言ってしまったかもしれない。建前上謝っただろうけど、このシャンクスにとって、まだおれがそうだと思っているところはあるだろうに、おれはもう一度その答えを切り捨てたのだ。
 気まずい思いをこれ以上したくなかったおれは、挨拶だけしてその場を立ち去ることを考え始めた。おれがその行動に出る前に、シャンクスがなるべく明るい笑顔を向けてくる。


「本当、迷惑かけて悪かった! 嫌かもしれねェが、これも何かの縁だと思って仲良くしてくれよな!」

「別に嫌ではないが……」


 おれは別にいいけどさ、人違いだってわかってしんどくないか? それとも人違いだとしても鷹の目のそばに居たいほどの仲だったのか?
 そういう人の心をえぐるようなことを言うのはさすがにまずかろうと、こちらからも笑みのようなものを向けておく。笑顔になっているかは知らん。口開けてガハハと笑わない限り、なかなか笑顔を見えない顔なんだけどね。


「それじゃあ、よろしくな!」


それが呪いだと知らずに

ミホーク成り代わり主で、主人公だけワンピース世界の記憶がない現代転生@匿名さん
リクエストありがとうございました!



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