センゴクさんから久しぶりに連絡があり、色々と近況報告をしていたら、お前はともかく子どもの健康診断は受けているのかといわれた。健康診断。そんなものあったな、というのが、元大学生のおれの考えだ。
 確かに本来毎年受けるべきもので、けれどこっちに来てからは全くやったことがない、あの健康診断。今のおれはそのあたりをうろついているプータロー的なもので、就職していれば福利厚生でそういう機会もあったのだろうが、まったく思いつきもしなかった。まあたしかに、おれはともかくね。おれは多分健康そのものだけど、弱ってそうだったロシーくんを定期的に医者に診せなくてもいいのかと言われたら、絶対診せた方がいいって話だよね。

 海軍本部の近くにいたこともあって、センゴクさんが本部で受けさせてくれることになった。マジ? しかも家にも泊めてくれるって。優しすぎか?
 そういうわけで、やってまいりました海軍本部。ロシーくんをセンゴクさんに預けて、健康診断を受けさせている間、おれは暇だった。おれも受けるべきなんだろうけど、それについては断った。正直自分が超人的なものになってしまったことはわかっているので、あんまり調べられたくないんだよなぁ……なんかやばいものが出てきたら困るし、ていうかたぶん、注射針とか刺さらないんだよなぁ……とりあえずもし健康診断をやるにしても政府に関係なさそうなところで調べてもらうことにする。

 おれはひとまず海軍の食堂へ。海兵ばっかりの中でひとり私服でうろついているので、めちゃくちゃ浮いているが首から来客用の札を下げているため、特に誰からも何も言われることはなかった。出入り業者なんかも、きちんと業者用の札があり、海兵の皆さんはそういうのできちんと鑑別しているようだ。
 偉い人しかいないはずのエリアとかだったら一人でいると問い詰められるんだろうけど、そういうエリアに行くときはセンゴクさんと一緒だからな……。スパイなんかがいるとしたら来客より海兵のふりして内部に忍び込む方がよっぽどいいしね。

 食堂に到着しメニューを確認していると、サカズキを見つけた。やったーラッキー。正直ね、おれ、海軍の知り合いはセンゴクさんとサカズキだけみたいなところあるから暇つぶしの相手が見つかってよかったよね。
 センゴクさんの船に乗ってた中には何人か知り合いができたけど、名前は覚えてねーんだわ。サカズキやセンゴクさんほどのインパクトがなくてね……。顔見れば、たぶん、わかると思うけど……くらいなんだよね。それにおれ自身も遠巻きにされていたので、挨拶はしても世間話をするほどではない。


「おーす、サカズキ元気? 一口くれない?」


 飯を食ってたサカズキに話しかけたら、不愉快そうな顔で舌打ちをされた。無視せず振りむいてくれただけ割と好感触なのでは?と思ってしまうあたり、サカズキという男の対応の悪さがわかるというものだ。


「なんでお前がおる」


 するどい目つきのまま、サカズキはおれを見て返事をしてくれた。それなりに返事をしてくれていた遠征直後でさえそこそこ無視されていたわりに、今日はなんだかんだおれを無視してこないので、本当にちょっとかもしれないが距離を縮められた気がする。


「ロシーくんの健康診断」

「は? ……海軍に所属する気になったか?」

「いんや。センゴクさんのご厚意」


 センゴクさんから見たら、子どもが子どもを育てているような気になって心配なんだろう。しかも育ててるのがおれ。おれが常人から逸している存在なので、子どもの健康だの、食事だのなんだのと心配をおかけしているに違いない。おれだっておれみたいなのが子ども育ててたら不安だしな。お気遣いは大変助かる。ありがとうございます。

 サカズキはおれの返答にまた不愉快そうな顔を作った。おれは気にせず、隣の席に座る。サカズキの食っていた定食のおかずに手を伸ばそうとすると、ぴしゃんと叩き落された。


「やらん」

「ケチ」

「お前じゃ。自分でもらって来い」


 サカズキのご意見はごもっともである。海軍の食堂は海兵は無料であり、外部の人間も札さえ持っていれば無料にしてもらえるので、おれは無料で食べることは可能なのだ。とはいえ、もらえるのは札一枚につき一回。札を渡して、食堂利用済みの札と変えられてしまうので、そのあともらうことはできなくなってしまう。


「いやさ、ロシーくんの健康診断終わったら一緒に食うからさ」

「なら我慢しろ」


 それはそう。まったくもってサカズキが正しい、圧倒的正論!
 でもおれはちょっと何か摘まみたい気分なんだよね……。まあ、サカズキからしたらおれは昼飯を奪う大悪党だもんな。じゃあ無理だな。初めからわかりきっていた結末なので、言ってみただけというやつである。ワンチャンもらえたら嬉しいなって……。


「あれ、サカズキ? 誰かといるだなんて珍しいねェ〜」


 声をかけられたのはおれではなかったが、というか、海軍内では見知らぬおれに声をかけるよりも悪い意味で名の知れてそうなサカズキに声をかける方が難易度が高いというか、珍しいことだろうと思われるので、サカズキだけでなくおれもつられて振りむいた。
 なんか、見たことあるような……? ニット帽に、サングラス……ああ、あれか、黄猿? 黄猿ならサカズキに話しかけるのも納得なんだが、いやなんか、おしゃれはおしゃれなんだけど、チャッラいわぁ……。


「……」

「……」

「あれェ〜? どうしたんだい、二人とも黙り込んで」


 こちらが何とも返事をしてないのに黄猿と思われる人物は、おれたちの前の席に腰を下ろした。おれはチャラい人類とお友達になったことのない人種なので、思わず黙り込んでしまう。体が超人化した元オタクのコミュニケーション能力では、強面で凶暴なサカズキよりもチャラくて陽キャと思われる黄猿の方が怖い。
 とはいえ、サカズキがおれのときみたいにまた嫌そうな顔をして黄猿を見ているので、ある程度の知り合いではあると思うのだが……。とはいえ、おれは無力な一般庶民(コミュニケーション能力において)。無言の空気がいたたまれず、へらっと笑って黄猿に話しかける。


「えーと、あなたは、サカズキの友達か何か?」

「違う」


 おれは黄猿に話しかけたのだが、即答は隣のサカズキからもたらされた。そんなふうに一刀両断された黄猿は気分を害したわけでもなさそうで、ニコニコと笑いながらおれに返答をくれた。


「わっしはボルサリーノ。サカズキとは同期の間柄かねェ〜。そちらさんは?」

「サカズキの友達のナマエです」

「違う。誰が友達じゃ」

「ひどいッ、アタシのことは遊びだったのね!」


 調子に乗ってそう言うと、だいぶ怖い顔で「黙れハゲ」と舌打ちをされた。だがこっちもハゲと言われて黙ってはおけない。


「ハゲだ? てめェ、人の外見をあげつらうってーのはどういう根性してんだ?」

「ハゲボケカス」

「言い過ぎじゃない? つーかハゲはやめろ? カスでもボケでもかまわんが、こちとら好きでハゲてんじゃねーんだわ? 見ろこのつるつる。一回抜けてから二度と生えてこねえ不毛の地だぞ?」


 そう言うとサカズキから可哀想なものを見る目を向けられた。そうだ、おれは可哀想なんだよ。憐れめ。そして二度とハゲと呼ぶな。

 サカズキとメンチを切り合っていると、真正面から笑い声が聞こえてきた。なんか、きゃらきゃらしてるっていうか、なんつーか、笑い方までなんか陽キャというかチャラい。


「ほんとに仲良いんだねェ〜」

「まあな」


 おれが笑顔でそう答えたせいか、食事が終わってしまったからか、サカズキはおれたちのことをガン無視して立ち去ってしまった。多分両方だろう。もうおれたちを相手をするのが面倒になってしまったんだと思う。


「それで、本当のところは?」

「一回船で一緒になって組まされた仲」

「外部の人間とねェ。ナマエ、強いのかィ?」

「まあ、それなりには」


 少なくともこの世界に来てから死ぬかもしれないと思ったのは、一番初めに出会った猛獣だけだ。それだって突然のハゲ&トリップでパニックになっていたから怖がっていただけで、本質的に死の恐怖を感じたとは言い難い。
 とりあえずのところ、まともにやり合える人間と出会ったことはないのだから、強いと言い切ってしまっていいだろう。やばそうなのはカイドウくらいか? 会ったことないからわからんが、捕まっても死刑にできないとかそんな感じみたいだから、おれと近い何かがあるよね。


「へェ〜、今度機会があったら手合わせしてくれないかい?」

「いやー、あんまりしたくはねェかな」


 力加減を間違えて殺したらヤバいので、おれは基本殺しても問題のない相手としか拳を交えたくないのだ。おれの苦笑いをどうとらえたのか、黄猿――ボルサリーノは「ふゥん」と何か含みのある笑顔を浮かべていた。

楽しみにしないで

黄猿 脇役△にて登場@匿名さん
リクエストありがとうございました!



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