サカズキ氏おれを肩車してくれず。

 まあ当然っちゃあ当然だわな。おれだって自分より一個年上の人間に肩車してって言われたら断るわ。誰がそんなことすんだアホかよって思う。でもおれは、おれは……三メートル越えの高さを体験してみたかったんや……!!
 脳内関西人が嘆き始めたところで掃除も終わり、さて次は何をしたものかな、と思ったのだが、この船に乗っている人員はそれなりに多いし担当も決まっている。おれは部外者でサカズキは言ってしまえば厄介者、挙げ句今日から子守となれば機密に関わるものや武器系の仕事には携われないのがまともな連中の考えである。ついでに食事系もダメかな〜とはいえそもそもそれはコックの領分である。おれたちには関係ない。と来ると、今日はもう特にやることはないかもしれない。


「自由時間かねえ」

「ふん、ならわしは行くぞ」

「はーいどうぞどうぞ」


 筋トレでもしに行くであろうサカズキに着いていこうなどとはおれも思わないし、コンビであるからとはいえそこまでのことは強要されていないため、おれが為すべきことは特にない。強いて言えば子守、というかロシーくんと一緒にいることくらいだろう。拾ってきたのはおれだし、それくらいの面倒は見れるつもりだ。


「お、そうだロシーくん。すっかり聞き忘れてたけどお腹はすいてる?」

「……おなか、すいてる」

「よっし、じゃあ食堂行こう! 何か作ってくれるはず!」


 ロシーくんの手を取って、食堂に行くことにする。抱えていった方が早いが、今は別に速さを競ってるわけでもなんでもないのでこれくらいがちょうどいいのではないだろうか。船内でのじろじろとした視線が気になるのか、ロシーくんがおれの手をきゅっと握ってくる。足を止めて屈み、手を繋いでいる方とは反対の手でぽんぽんと頭を撫でた。


「ロシーくんはいい子だね。我慢強くて、人を気遣える優しい子だ」

「え、えっと……」

「でもね、怖かったら怖いって言っていいし、嫌なことは嫌でいい。おれが気がつかなきゃいけないけど、気の回る方でもないからさ、お腹すいてるときとか何かしたいときは主張していいんだよ。別に怒ったりしないし、迷惑でもないんだからね?」


 多分孤児だった影響とかなんだろうけど、ロシーくんってばものすんごく主張が控えめなのでこれではいかんと思うのだよ、お兄さんは。暴行受けたような痕もあったし、憶測でしかないけどお腹空かせて何か盗んじゃって殴られたりとかしたんじゃないかなって。嫌な話だけどこの世界ではよくあるんだよなぁ、そういうの。だからあまり主張して大人を怒らせないようにしなくちゃ、みたいなのをひしひしと感じるわけでしてね? さっきの島に寄ることになるだろうから調べてみてもいいんだけど、人の過去抉るのってあんまりな……。
 ロシーくんは目を大きく見開いて、それからゆっくりと頷いてくれた。あ、でもこれ多分あんまりワガママ言ってくれないパターンのやつ。めっちゃ控えめ。まあワガママが言いにくい性格の子もいるしな、ゆっくり距離詰めていけばいいだろう。
 そんなこんなを挟みつつ、やって来ました食堂! しかしコックたちが慌ただしく夕飯の用意をしている様を前にすると、これ来ちゃいけないタイミングで来ちゃったんじゃないかと思ってしまう。どうしたもんかと思っていると、コックの一人が話しかけてきてくれた。多分ロシーくん効果である。


「お、その子が船に乗ったガキか。どうした? 腹空かせてんのか?」

「そうなんですよ〜。なんか分けてもらえないですかね?」

「……そうだな、白飯と具になるもんやるから握り飯でも自分たちで作って食え」

「あざーす!」

「あ、ありがとうございます……」


 お礼を言ったロシーくんにコックは何度か瞬きして、それから破顔した。かがんでからぐりぐりとロシーくんの頭を撫で回し、「いいってことよ!」とあらためて快活に笑った。おお、ロシーくんすごい。コックが食材を取りに行ってくれてる間、おれも「お礼言えるなんていい子だね〜」とロシーくんの頭を撫でくりまわしておいた。猫可愛がっちゃるわ!


「ほらよ。ちょっと豪華なのも入れてやったから感謝しろよ」

「わあい! コックさんありがとう!」

「てめェのためじゃなくてこっちのガキのためだ馬鹿野郎」

「ありがとうございます……!」


 コックはおれに暴言を吐き、ロシーくんの頭をまた撫でて去っていた。悲しい。でもいいもんね、こんだけ飯あんだからおれも食っちゃうもんね。あれはコックのツンデレだと思うことにする。別にツンデレがすごい好きってわけでもないが、そう思ってないと心砕けちゃう。嘘だけど。


「よーしそれじゃあ用意してくれたお手拭きで手を拭いて、じゃあ握ってみますか!」

「う、うん!」


 二人で腕まくりをして手を拭き、おにぎりを作成していく。中身は梅と鮭とローストチキンというなんとも言えぬ組み合わせを持ってきてくれたらしい。高菜とか明太子とか昆布とかおかかとかも欲しかったんだけどこれ言ったら絶対怒られるからやめとこう。
 真剣につくること約一分。……うん、まあ、予想はしていた。ふえぇ……おれのおにぎりかたいよぉ……。力こもりすぎだよぉ……。おれにはもう幼女の真似をすることしかできない。それに引き換えロシーくんのおにぎりの完璧な出来といったらもう。つやつやのお米がふわりと握られていておれの岩石おにぎりとは比べ物にならないだろう。ごめんな、お米さん……。


「ロシーくんのやつの方が明らかに美味しそうな件について」

「え、そんなこと、ないよ」

「そんなことあるよ〜! 見てみ、この硬そうなおにぎりを。握り飯っていうより握りすぎた飯って感じだろ? ロシーくんのが美味しそうじゃん?」


 ちょっと照れているロシーくんを褒めちぎった。なんだこの生き物かわいい。米触ったあとの手なので撫でたい気持ちを抑えて、口だけだらしなく緩ませると、ロシーくんも嬉しそうに笑って、おれにおにぎりを差し出してくれた。


「あ、あげる……」

「えっいいの! ありがとう! じゃあおれのもあげるよ! 明らかにおれのが得してるけど!」


 遠慮しない系男子のおれはロシーくんが差し出してくれたおにぎりを受け取って、おれのと交換した。お礼を言って受け取ってくれたロシーくんはおれをじっと見つめている。あ、先に食べたほうがいい感じだね。一口かじると絶妙な硬さだった。


「美味しいよー! ありがとうね! あ、おれの食えないほど硬かったら無理して食べないでね……」


 照れてるロシーくんがほわほわ笑っている。激かわですわ。天使か? これが天使か? こんな子どもが孤児になる切ない時代よ……でもこの子礼儀はしっかりしてるから親が捨てたとかじゃなさそうだよな……。暗い過去持ってそうだし、あんまり詮索しない方がいいだろう。
 そんなことをぼんやりと考えていたら、ロシーくんがおれの握りすぎた飯を一口二口と食い始めていた。おお。ロシーくんでも食える硬さか。よかった。と思っていたら、びっくりした顔になってしまった。


「すっぱい……」

「あっごめん、おれが食うつもりだったから梅干し入れちゃったんだ。大丈夫?」

「だいじょうぶ。たべたことなかったから、びっくりしただけ」


 まじまじと見つめているロシーくんに、おれは得意げになって梅干しには殺菌効果があることや何やら雑学を話してしまった。するとロシーくんのおれを見る目が何か尊敬するものを見るようなキラキラとしたものに変わっていた。ま、眩しい……!
 おれはそんな尊敬されるような人間じゃあないんだけどな、と思いながらも嬉しくて笑っていたら、食堂のドアが乱暴に開いた。おれとロシーくんの前を通りがかったコックが文句を言おうとして、口を閉じた。なんせそこにいたのは真剣な顔をしたサカズキだ。コックは絡まれたくないとばかりに足早に去っていた。そしてサカズキはおれを見るなりでかい声を出した。


「楽しそうに飯食っとる場合か! 海賊と交戦になっちょる! 早くしろッ!」

「あ、そうなの? 全然気が付かなかったわ。じゃあロシーくんを医務室に届けたら甲板で合流しマッスル!」

「チッ!」


 はっきり聞こえるようなどぎつい舌打ちをしてサカズキは出ていった。こわ。ロシーくんは交戦という言葉に顔を白くさせている。「大丈夫だよ、何があっても守ってあげるからね」と声をかけてから連れていこうとすると、コックたちから声がかかった。


「おい! そのガキならおれたちが預かっててやる!」

「へ?」

「医務室にいたら怪我人運ばれてきて怖い思いすんだろうが!」


 ああなるほど、たしかに。彼らの言葉には説得力があって、おれは頷いてロシーくんにここでコックのお兄さんたちと待っているように告げて、軽く走って甲板へと向かった。


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