「なんや、お嬢ちゃん、泣きそうな顔しとるやないか。せっかくの可愛いお人魚さんやのに台無しやで」 俯き、必死に泣くの堪えていた私に声をかけてきたのは、隣に座るきらきらと光る柔らかい金色の髪と瞳を持つ綺麗すぎる少女だった。同じ人間に思えないほど神々しく愛らしい容姿をしている。そんな外見に似合わない口調で話し、私のことをじっと見ていた。まだあどけない彼女の手には私よりも頑丈な手枷がつけられているというのに、怯えている様子はまるでない。これから私達、売られちゃうんだよ、不安じゃないの? 聞きたいのに震えて声は出なかった。そんな私に女の子は唇の角をくいっとあげて笑う。どきっとするほど愛らしい笑顔だった。 「大丈夫、大丈夫。お嬢ちゃんならまずひどい目ぇにはあわん人種やしな。あ、でもあれか、場合によっちゃあ刺身にされる可能性もあるわなァ」 「え、そ……そんな、わ、私、食べられちゃうの!?」 「どないやろなァ、買われてみいひんとそこらはわからんやろ」 こてん、と首を傾げている動作はとても愛らしいのに、言ってくることはとても怖くて、私は涙が止められなくなる。どうしよう、助けて、たすけてはっちん。わがまま言ってごめんなさい。私があんなところに行かなければ。こんなことになるって、わかってたのに。はっちんもパッパグも止めてくれたのに。ごめんなさい。 「こらリュツィ、可愛いお嬢さんを怯えさせてどうする」 リュツィ、と耳にしたことのない名前が聞こえてきたかと思えば、隣にいた少女はこれでもかというほどに表情を歪めて、とても女の子がしてはいけないような顔をした。それから声がしていた方へ軽く視線を向ける。彼女の視線の先は、どうやら巨人さんの奥にいる誰かのようで、巨人さんの腰辺りをギッと睨み付けていた。 「うっさいんじゃワレ、ジジイは黙っとれ」 「ははは、お前は昔から本当に口が悪いな。そして相変わらず無類の女好きだ」 「カッ、ちょっかい出しただけでそれかい。大体な、あっちこっちに女作っとるおどれに言われたないわクソジジイ」 「なんだ、嫉妬か?」 「頭おかしいんちゃうか。何がどうなったら嫉妬になるんや」 「キミが私のことを好きだったらそういうことになるな」 「うっわ、ほんま冗談きついで……」 ほら、さぶいぼや、見える? と本当に身体に鳥肌を立てているリュツィちゃんとおじいさんは知り合いなのだろう。やり取りがなんだか面白くて、こんな状況なのに笑顔になる。もしかしたらさっきのお刺身発言も、私を笑わそうとしていたのかもしれない。普通なら冗談として通じるものだったけど、つい、魚なんて言われちゃうし本当に食べられちゃうのかと思った。 「それにしても今回のオークションはほんま目玉商品が多いなァ。勘弁して欲しいわ。こないに人魚やァ巨人やァっておったらわしが適正価格で落とされんかもしれん」 「えっ、えっとリュツィちゃん、だよね?」 「せや、でもちゃん付けなんて久々に聞いたわ。お嬢ちゃん可愛いから許したるで。お嬢ちゃんの名前は?」 「あ、私、ケイミー!」 「ケイミーか、ええ名前やん。大切にしいや」 「あ、ありがとう……それでリュツィちゃん、勘違いだったらごめんね、あの、もしかして売られたいの……?」 「おん? そらそうや。ここだけの話やけどなァ、」 ゆっくりと顔を近付けてきたリュツィちゃんは、小さな声で私に耳打ちした。綺麗で鈴の鳴るような声が、想像もしていなかった驚くべき言葉を発した。 「わしな、自分から捕まってん」 ま、奥に座ってるジジイもやけどな、なんて続けているリュツィちゃんを驚いたままに見つめ続けてしまった。自分から、捕まる? どうして? リュツィちゃんが私にはとても理解できなくて、なんと言ったらいいのかわからなくて、二の句が継げない。リュツィちゃんはそんな私に、にっこりと笑って見せる。 「同じ人間に買われるようなことがあったら助けたるから、そんときは心配せんでええよ」 天使みたいな笑みだった。 |