きみだけがほめてくれたぼくで何が悪いの?(1000)→女神様さえ忌むらしい(5000)の続編



「クロコダイル、お風呂、」

「……やだ」


 ぐずぐず泣いていたクロコダイルを抱え背中をぽんぽんと叩いていたら泣き止んできたので、お風呂へ入ることを促すと小さな声で呻くようにしてそう言った。とはいえ、この地方はじめじめしているし、風呂に入らなければ汚いというのに。そこまでして嫌なのか。……というか、うちには風呂釜があるわけじゃないし、シャワーしか浴びれないから能力制限も受けないし。それとなくそんなことを伝えたら、クロコダイルは目一杯眉間に皺を寄せて「……すなは、かたまるだろ」と言った。全然考え付かなかったが、どうやら水という水が弱点らしい。そりゃあまあ、いやだよな……。


「でもね、しばらく入れないから入ってきな。クロコダイル、病気になるよ?」

「……しばらく入れねぇって、なんで」

「この家、捨てないと」

「…………なんで?」

「この島からクロコダイルを連れて逃げないと、おれ、誘拐で捕まっちゃうからね」


 一人きりで生活しているおれがいくら周りとの交流がないとはいえ、子供がいないことはさすがにわかっていると思う。そんなところに顔のきれいな子供がいきなり来て、しかもおれに似てないとなれば完全に誘拐である。近所付きあいもないおれには味方など当然いるわけもないので、確実にお縄につくことになるだろう。おれは捕まる気はないぞ。前科がついたところで他の島に移ればいいだけだが、それはそれ、そういう問題ではないのだ。


「ナマエ、おれをつれて、にげてくれるのか」

「うん? そのつもりだけど」


 言えばクロコダイルはまたすこし泣きそうに顔を歪めていた。我慢しないで泣けばいいのに、子供なんだから。おれはちょっと困っちゃうけどね。思いながらクロコダイルの頭を撫でていると、「じゃあ、いっしょに、入れ」だなんて命令口調。いやでもおれ、クロコダイルの服用意しないといけないし……と思ったけれど、風呂に入ろうと誘われるくらいだから信頼されてるってことなんだろう。それをお断りする気にはなれなくて、おれは「じゃあちょっと待ってね」と服を引きずり出すことにした。しかしながら一番小さいものでもクロコダイルには大きすぎて、シーツを巻かせている方がまだマシと言うレベルだ。おれ……常人よりだいぶ大きいしなあ……。仕方ないのでクロコダイルは今着ているぼろの服が乾くまでタオルでも巻かせておくことにした。……大丈夫だよな?


「じゃあクロコダイル、入ろうか?」

「……ん」


 ちょっと緊張したようなクロコダイルを脱衣所に連れて行って、服をばっと脱がしてシャワー室に放り込む。おれもばっと服を脱いでシャワー室に入る。あ、クロコダイルは男の子だった。妙な気の使い方をしなくて済むと思ったら、妙に安心してしまった。
 シャワー室には一応椅子が置いてあるが、それはおれのサイズなのでクロコダイルを持ち上げて座らせる。お湯が出たことを確認してからざばっとかけるとクロコダイルから声にならぬ悲鳴が上がった。……もしかしてこんな感じでやるのダメだった? ゆっくりシャワーを離すと恨みがましい目で見られた。


「ご、ごめん……」

「つぎからきをつけろよな」

「はい……」


 申し訳ない事をしたと思いながらシャンプーを手に取って、「あ、目、つむっててね」と言えばクロコダイルはこれでもかときつく目を閉じた。軽く手で泡立ててからクロコダイルの頭を洗おうとしたものの、クロコダイルの頭が小さくておれは両手が乗らなかった。……うわ、これ洗いづらいぞ。片手でぐりぐりしたら頭もげちゃうんじゃ……。慎重に慎重を重ね、片手でクロコダイルの側頭部を押さえつつまずはてっぺんを洗う。そんなふうにどこかを押さえながら違う場所を洗うということを繰り返していたら「まだか……?」と不安そうな声で聞かれてしまった。


「も、申し訳ない……今終わったから流すよ」

「ちょっとずつだぞ」

「うん、わかった」


 シャワーを弱くしてゆっくりとクロコダイルの頭の泡を流し切る。シャワーヘッドを離すとぶるぶるとクロコダイルは頭を振って水気を払った。なんか、犬みたいだった。かわいい。次にリンスをして、どれくらい待ったものなのかな、と思いつつもさっさと流して、クロコダイルに身体は自分で洗わせた。その間におれは屈んで自分の頭と身体をさっさと洗ってしまう。どうせおれはワニなので雑菌とかにも強いし、そこまで綺麗にする必要はない。ばーっと身体を洗い終わった頃にはクロコダイルも洗い終わっていた。


「流すよー」

「ん」


 頭を洗い流したときよりもちょっと強めにしてさっと流し、シャワー室にクロコダイルを置いておき、タオルを持ってきてぐりぐりと身体を拭いてやる。タオルもおれサイズなのでタオルに埋もれているクロコダイルはちょっと面白い。うぶうぶ言っているのが聞こえてきたのでタオルから解放するとクロコダイルはなんだか不満気な顔をしていた。ぽんぽんと頭を軽く叩いてごまかし、新しいタオルをクロコダイルの身体に巻きつけておく。


「クロコダイル、うちに着れるものないからとりあえず服乾くまでこれね」

「ん……」

「眠い?」

「ねむく、ねぇ」


 どう見たって眠いですって顔をしてるんだから眠いって言えばいいのになあ。「ちょっと待ってて」。おれは自分の身体を拭いて服をばっと着てからクロコダイルの頭をドライヤーで乾かしてやる。頭を乾かされている間、クロコダイルは気分よさそうに目を細めている。いや、眠いのか? ……おれにはどっちかわからないけれど、とりあえず不快に感じてはないと思う。ドライヤーを終えて、クロコダイルの身体を担ぎ上げる。やはり眠いのかぽやんぽやんしているクロコダイルは反応もうつろだ。クロコダイルにはでかすぎるベッドの上に転がして、薄いけれどクロコダイルの身体にあわせて折ればそこそこの厚みになる布団をかけてやる。枕は高すぎるので横に置いたら抱きついていた。……かわいい。これが父性愛ってやつでしょうか。


「……んぅ」

「おやすみ、クロコダイル」


 さて、おれはクロコダイルの服洗って、干して、あとは……なんかすることあったっけ?

ほうらまだこんなにもあたたかい

女神様さえ忌むらしいの続編@匿名さん
リクエストありがとうございました!



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