今日は七武海の会議があるらしく、海兵たちはにわかに緊張している。どうやら噂によるととてつもなく重要な議題で、全員に招集がかけられたようだった。全員が集まったようなので、そりゃあまあ、緊張もするだろう。暴れられでもしたら大変だものな……。でもおれにはあまり関係ない話だ。おれは医療班でも下っ端であり、警備にあたることもなければ会議に出席する階級でもない。だから七武海と顔を合わせることはありえないだろう。──と、思っていた時期がおれにもありました。


「誰か! 悪いがこれ渡してきてくれ!!」

「じゃあ、おれが。どこにですか?」

「ナマエ!? い、いや、お前が行くくらいならおれが……!」

「何言ってるんですか少佐、おれだってそれくらいのおつかいできますよ。というか少佐は他のお仕事溜まってるんですからそっちお願いします。戻ってきたらおれもお手伝いしますから」

「だ、だがな……!」

「いいから渡してください。どこに持っていけばいいんですか?」


 この上司はどこぞの大将のようにサボり癖があるので、できればこの医務室から一歩たりとも出したくない。少佐から書類の束を半ば無理やり受け取れば、少佐はもごもごと口の中でつぶやいた。いいから仕事をしてください、本当に。少佐じゃないとできないことあるんですから。そういう空気を出したおれに、少佐はとても大きな声を出した。


「だってそれ七武海の会議に持ってくんだぞ!? ナマエだって嫌だろ!?」

「し、七武海の会議……!」


 たしかにおれのような平々凡々な海兵が行って無事に済むかどうかわからないし、関わり合いになるようなところではないと思っていたのだが……しかし、一度やると言ったことを覆すような軟弱な人間ではないつもりだ。それに会議場には中将以上の実力者が集まると聞いているし、なにかあれば助けてもらえるはずである。そこまで心配するようなことはないのだ。「いえ、おれが行ってきます」。決心とともに言葉を吐き出し、必死に引き留める少佐を引きはがして医務室を後にした。
 七武海の会議が始まるまでまだ三十分以上ある。もしかしたら集まっていない可能性だってあるし、と自分を勇気づけながら歩いていたら、前方が何やらざわざわと騒がしい。一体何があったのだろう、と思いながら歩を進めると、警備に当たっている兵やら中将たちの怒鳴り声が聞こえてきた。……え? 本当に、何があったの?
 おそるおそる近寄ってみると、広い会議場の中は大惨事だった。し、七武海同士が揉めて戦ってる……。高笑いして中将を操るドンキホーテ・ドフラミンゴ、場内に砂をまき散らすサー・クロコダイル、見世物のように静観しているジュラキュール・ミホーク、影を操りはやし立てるゲッコー・モリア、いい加減にしろと怒るジンベエ、我関せずとばかりに本を読んでいるバーソロミュー・くま、巻き込まれたくないのか場外に出ようとしているボア・ハンコック……カオスって言葉はこのためにあるんだろうな、とぼんやり思った。


「誰か大将たち呼んで来い! 早く!」

「元帥やつる中将もだぞ! 早くしろォ!」


 おれは何故こんなタイミングで来てしまったのだろう。焦りまくっている見張り兵だったみんなや中将だちに、これ書類なんですけどー、と言って放置するのは人道的にどうかと思うし、だからと言っておれに止められるだけの腕があるとは思えない。どうしたものかと途方に暮れていると、ドアから出てきたボア・ハンコックと目が合ってしまった。思わず頭を下げると、キッときつい眼差しを向けられる。そしてボア・ハンコックは頭上を見上げながらおれを指差した。


「そこな海兵、何をしておる! さっさとこの馬鹿らしい騒ぎを止めんか!」

「え、あ、おれ……ですか?」


 周りを見渡してみてもそれらしき人物はいないし……ってあの人は何やってんだろうな。なんで上見てるんだろう。聞いてもいいのだろうか。いやでも九蛇……というか、アマゾン・リリーでは何か意味のある行動なのかもしれないし、女性にそのポーズいったいなんなんですか、なんて聞いたら失礼かもしれないし……。散々悩んでいると、痺れを切らしたらしいボア・ハンコックはかつんかつんとヒールの音を立てながら近寄ってきて思いっきりおれのケツを蹴った。い、痛い……!


「いいから早くせぬか! この愚か者!」

「はっ、はい……!」


 うっかりそう返事をしたはいいものの、実際おれがどうこうできる立場でも実力でもない。それでも返事をしたのだから動かないと言うのもまずいだろう。仕方なく近くにいた海兵に「これ、会議の資料だそうです」とタイミングも悪く資料を渡し、なんで今そんなもん渡してくるんだよ! という目線をいただいてからおれは一歩踏み出した。少佐……帰れないかもしれませんがどうぞお許しください……!
 脳内でそんなことを考えながら会議場の中を覗くと、さきほどより一層ひどくなっていた。ドンキホーテ・ドフラミンゴとサー・クロコダイルが争い、そこにゲッコー・モリアがちょっかいを出し、ジンベエがそれを諌めるという構図だったはずなのに、そこにジュラキュール・ミホークが刀を抜いて参戦しているではないか。……あの中に入ったら、おれ、死ぬんじゃ……? ぞっとしていると何人かの攻撃が一斉にバーソロミュー・くまの方へ向かって飛んだ。ニキュニキュの実の能力者である彼にとっては大したことではないだろうが、と思っていたが、読書をしていたバーソロミュー・くまはその攻撃にまったく気が付かなかったようで、ものすごい音を立てその攻撃を受けていた。巨体が宙を舞うと同時に攻撃をし始めていたが、バーソロミュー・くまの身体自体はこちらに向かって飛んでいるままだ。……あれ、おれの方に来てるよね? そう思った次の瞬間にはぶつかっていた。


「あーあァ、ワニ野郎のせいで善良な海兵サンをまきこんじまったなァ」

「ふん、お前が海兵の一人が潰れたくれェで何か言うようなやつだったとはな」

「キシシシ! 死体ならおれが貰うぞ!」

「死んだら内臓破裂だろうが、そんな死体でいいのか」

「死体は死体だ! 海兵の死体はなかなか手に入らねェからなァ!」

「巻き込んでおいてその態度か……お主らは……」


 聞こえてくる声に勝手なこと言いやがってだとか、ジンベエだけいい人だなだとか、そんなことを今思っている暇はまったくなくって。受け止めたバーソロミュー・くまの身体は軽い。普通の人間に比べればそれとはくらべものにならないが、感触からして金属を埋め込んでいるにもかかわらず彼の身体は体格に似合わぬほど軽量化されてしまっているのである。これは……病気の、予感! バーソロミュー・くまの顔を覗き込む。彼はとても驚いた顔をしていた。


「体重が軽すぎます! ちゃんとお食事取られてますか!?」

「はあァ!?」


 完全に医療班としてのスイッチが入ってしまって周りからの声など聞こえないおれは、目の前のバーソロミュー・くまに向かって言いたいこと聞きたいことを並べまくっていた。やれ食事はちゃんと取っているか、体調が悪いのではないか、身体に仕込んでいる何かで変調をきたしているのではないか、一度きちんとした検査を受けるべきだ、なんなら今から医務室に来ないかエトセトラエトセトラエトセトラ。
 おれが好き放題言葉を吐きだし、やっと落ち着いた頃、なぜだか周りの騒ぎも収まっていた。え、な、なに、どうした……? おそるおそる顔を上げれば、誰しもが固まり、顔を赤らめているではないか。も、もしかしてこれは……!! 


「集団感染症ですか!? と、とととにかく皆様医務室へ!」

「コラ、落ち着きなナマエ」

「……ク、クザン大将! た、大変なんです、くまさんがとても軽くて他七武海様が真っ赤で感染症ですか!? 隔離します!?」

「落ち着けって言ってるんだけどおれ」


 はァ、とため息をついたクザン大将やその後ろにやって来ていた大将赤犬、大将黄猿ともに若干ではあるが顔が赤く色づいているような気がする。ど、どうしよう、これはきっと何かの感染症に違いない……! 慌てふためくおれに、クザン大将からチョップがお見舞いされる。い、痛い……。


「まずバーソロミュー・くまを下ろして。そんでお前は医務室に戻んなさい」

「で、でも……」

「大丈夫だからほら。行った行った」


 致し方なくバーソロミュー・くまを下ろして、「どうぞご自愛くださいね」と手を握ってお願いしてからその場を後にすることにした。クザン大将は滅法熱に弱い体質であるはずなので会議後に必ず医務室に来るように言って、会議室に背を向ける。感染症に怯えていたおれは、会議後、色んな人が医務室に押し寄せてくることをまだ知らない。

病人製造機

海軍所属の超力持ちで自覚がないが性格顔良しの天然たらし男主が、中将以上が出席する七武海の会議に全員が揃っているところへたまたま男主が訪れ、何らかの理由で倒れてきたくまをお姫様抱っこして、軽すぎますよ、ちゃんとご飯食べられてますか?的な心配したら、皆、顔真っ赤、男主は何で?と思ってる設定@アップルパイさん
リクエストありがとうございました!



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