性的(R17)な要素を含みます。苦手な方はブラウザバック推奨です。



「お前、本当に真面目だなァ」


 久々にサカズキが休暇を取ったらしいという話を聞いてサカズキの家に突入してみれば、事務仕事をこなしていた。ああ、家に持ち帰ってんのね……。休暇なんだから休めよ、趣味の盆栽でもやったらいいだろ。そんな顔をして言ったというのに、サカズキはちらりともこっちを見なかったし、声に気が付いたはずなのに返事もしてくれなかった。無視ってどうよ。返事をしないのはいつものことだが、こっちを見ないというのは珍しい。
 無視をするというのならそれでもいいだろう。おれも勝手にやらせてもらう。勝手にサカズキの布団を干し、勝手に風呂を掃除して沸かし、勝手に家の中の掃除をし、勝手に冷蔵庫をあさり飯を作り、勝手にやかんで水を沸かしてお茶を入れたところでサカズキがのっそりとやってきた。匂いにつられてやってきたのだろうか、可愛い奴め。手招きすればのそのそと近寄ってきたサカズキは畳の上に腰を下ろした。


「ほら、冷めねェうちに食え」


 サカズキは言葉もなくうなずくときちんといただきますをしてから飯を食い始める。おれは夕飯の支度を始めた。せっかくだから手の込んだものを用意しようというおれの変な意気込みである。サカズキは黙々と飯を食い、おれは黙々と煮物やらを作る。思春期を迎えた息子を抱える母親はこんな感じなのだろうか。ぼうっとそんなことを思ってしまった。
 おれが夕飯の支度をしている間に食べ終えたサカズキは、食器をシンクに下げてごちそうさまと言って部屋に戻っていった。おれは洗い物と飯の支度を終えてから布団をしまいに行って、あらかたやることがなくなったので可哀想なことになっているサカズキの盆栽を見て回ってからサカズキのいる部屋に行ってみる。まだ仕事は終わっていないようで、黙々と書類を仕上げていた。


「ちょっと貸してみ」


 サカズキの仕事を一時中断させるべく机の上に手を乗せれば、すこしの間のあとサカズキはおれの手の上に書類を乗せてきた。ぱらぱらとめくってみれば、サカズキじゃなくともできるものも半数ほどある。それを引っこ抜いてから返すとサカズキはまた仕事を再開させた。おれももうひとつの机を引っ張り出してきて、その上で書類を片付ける。そうして二人で仕事をしているとサカズキがぽつりと呟いた。


「ナマエは、仕事終わっちょるんか」

「おれは定時で帰るために仕事はそこで全部終える。きちんと休むためにプライベートに仕事は持ち込まねェ」

「……ほーか」


 言い切ったら地味にサカズキが落ち込んだようだった。こいつは馬鹿なんじゃないだろうか、プライベートではしないということはお前の手伝いをするのは仕事じゃない。好きでやってることなんだぞ。──ということなのだが、仕事以外ではまるで裏を読むということのできないサカズキには伝わらなかったらしい。馬鹿め。口元をゆるめて手元の書類からサカズキへと視線を向ける。


「これはやりたくてやってんだからいいんだぞ」

「…………ほーか」


 サカズキは照れてるらしく、言葉がワンテンポ遅れた。許せんくらい可愛い。おれのツボでも狙ってんだろうかこいつ。それ以後会話らしい会話もなく、サカズキの仕事を片づけた。いつも真面目に仕事をしているサカズキがいくら仕事を持ち帰ってきたとはいえ大した量があるわけがなく、すぐにそれは終わった。
 とんとん、と書類をまとめて渡すと軽く頭を下げて「助かった」と言葉をこぼした。それに「おう」と返して、部屋の中を見渡した。特に掃除する必要もなさそうだし、おれがこれ以上やるべきことは特にないだろう。サカズキも仕事を終えていたので、盆栽でもしてくればいいと勧めたのだが、サカズキはふるふると首を横に振るばかりで外に出ようとはしなかった。
 ならば、とサカズキを手招きする。立ち上がることもなくずるずると這うように進んできたサカズキにがばりと抱き着いた。当然女のようにやわらかくもなければ、女のようにいい匂いがするわけでもない。サカズキは普通の男なんかよりも硬い筋肉をしているし、部屋にいるせいかいぐさの匂いがする。おれはそういう、サカズキという男が好きだった。


「……匂いを嗅ぐな、ばかもん」

「なんで?」

「なんで、じゃない。普通そうじゃろうが」


 おれはサカズキに嗅がれても全然気にしない。だって身体とかそれなりに綺麗にしてるから全然臭くないし。身だしなみには気を使っているから大丈夫……なはず。こういうのは気にするとストレスで臭くなるって聞いたことあるし、あまり考えすぎないのが吉だ。とはいえずっと匂いを嗅いでいる気もないので、サカズキの言葉に従って嗅ぐのはやめた。会話があるわけでもなく、妙に静かに感じた。けどこんな時間は嫌じゃない。
 腕の中に納まっていたサカズキが身じろぎをして、おれの肩に顔をうずめた。聞こえてくる呼吸音は、どこか疲れているようでもある。背中を撫でてやれば、大きく息を吐いた。まるでため息のように。長い付き合いだ、その意味がわからんわけでもない。


「責任感じちゃったりしてんだろ、馬鹿サカズキ」

「馬鹿とはなんじゃ……」


 否定をしない、力のない声。あからさまに気にしてんじゃねェか。絶対的な正義を掲げていても考える時間がありあまっていれば、ふとした瞬間に自問自答して自己嫌悪に陥ることだってある。サカズキだって人間だ。迷いも悔いも当然のように持ち合わせている。それを内側に押しとどめているだけなのだ。顔を上げさせると外では見れないようなすこし情けない表情をしていた。ちゅ、ちゅ、と顔面にキスをすると嫌がる素振りは見せず、静かに目を閉じた。「おれは何があったってお前の味方でいてやるから」。その言葉にサカズキは小さくうなずいた。

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サカズキはうまく甘えるということができない。いや、あれでも一応甘えてるんだろうし、おれもそんなサカズキが可愛いとは思うが、あんなもんじゃまだ足りないのだ。誰かにちゃんと甘えたことがないから、頼り方すら知らずに育ってしまった。そして気が付けばこんな年、今更甘え方なんて教えられるわけもない。よくなった方だとは思うけれど、嫌なことは身体の中にしまいっぱなしだった。いつかストレスで死ぬんじゃないかと思う。耐えられてしまう精神力のせいで、きっと先に肉体が耐えられなくなるだろう。
だったら頭ん中をどろっどろにしてやればいい。何も考えられなくしてやる。ストレス解消になるのかなんかわからない。ただ先延ばしにしてるだけかもしれない。それでも何もしないよりはマシだった。
何も考えられないくらいにどろどろにしてやると、サカズキの口からは荒い息と唾液がこぼれ、何度もおれの名前が呼ばれた。そうやっておれのことだけ考えてりゃあいいんだ。サカズキの太い腕がおれの首に回る。油断したらへし折られるんじゃないかと馬鹿なことを考えたけれど、それ以上に地味にじりじりと熱いことに気が付いてしまった。局部も熱いと思っていたが、首の後ろはその比ではない。髪の生え際からはちょっと変なにおいがしている。おいおい皮膚焼けてねェかこれ。やべェ、マグマグしてやがる。今日は死ぬかもしれねェ。サカズキはそれほど余裕がないのだと思うと唇が笑ってしまう。

「ナマエ、ッナマエ……ナマエ……っ」
「どーし、た、サカズキ……」

腹上死は男のロマンだ。別にこのまま殺されたっていい。おれも頭が馬鹿になっているのか、そんなことを思ってしまう。いいわけがないのに。どう考えたってサカズキが気負うだろって話だ。死ぬの、絶対、ダメ。サカズキはおれをゆっくりと見上げる。ぼんやりとした目でおれを見ていた。

「すきじゃ」

消え入りそうな声。泣きそうな顔。──ああもう、たまんねェな。イかせる気かっつーの馬鹿サカズキ。

「……馬ァ鹿、愛してんぞ」

呼吸を確認してあげる

サカズキでみんなには見せないけど男主の前では可愛く甘える裏@匿名さん
リクエストありがとうございました!



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