「…………」

「おいおい、二人きりでも無視するつもりか?」


 フッフッフ、というドフラミンゴ特有の笑い声が耳につく。目の前にはドフラミンゴ、逃げ場のない空間……勘弁してほしい……。
 どうしてこうなったか、というと、たまたま海軍本部の近くを漂流していたらおつるさんがご飯でも食べに行くかと声をかけてくれたからほいほい着いて行ったら、おつるさんが海兵に呼び出されおつるさんの執務室に取り残されたおれ。待っていたらドフラミンゴがやってきたのであった。──嘘だろ。そのときのおれの気持ちである。なんでドフラミンゴなんだよ……おれはこいつとはお関わり合いになりたくないっていうのに。こいつ絶対悪いこと考えてるじゃん。今は多分スマイルとか作ってないけどさ、そのうち絶対売りまくるじゃん。危ないじゃん。こいつと関わったらいらん敵ぜったい増えるだろうし、外で話し掛けられたくない人間第一位をぶっちぎってんだよ……。悪名高いのはおれもだけど恨まれるようなことしてないと思う。ぶっちゃけ海賊退治して漂流してるだけだし。
 おれが懸命に思考に逃げていると言うのに、ドフラミンゴは何が楽しいのかこっちをじろじろと見てくる。ドフラミンゴの視線に耐えかねて、もう、観念した。ため息をつきながらちらりと目を向けると、ドフラミンゴはぴくりと肩を揺らして固まった。


「何の用だ」

「……いやァ、用は別にねェがな?」

「なんだその歯切れの悪い言葉は」


 ドフラミンゴっていっつもぺらぺら余計なことを言ってるイメージなんだがこんなふうに歯切れの悪い言葉ということは、もしかして具合でも悪いのか? ……そんなわけないか。もし具合悪かったら絶対ドレスローザから出ないだろ。この若様、部下から愛されてるみたいだし。……うわ、今自分で若様って考えてぞわっとした。やめよう。やっぱドフラミンゴはドフラミンゴだわ。
 すこし首を傾げたまま、なんとも言葉を探しているようだったドフラミンゴに対し、おれから言葉を投げかけることにした。方言さえ出ないようにゆっくり考えながら落ち着いて話せばいいだけのことだ。おれならできる。やれる!


「ならば世間話でもしたいということか」

「……あァ、まァ、そうなんのか?」

「おれが知るか。はっきりしろ」


 なんだこいつ。本当になんか変だぞ。いつも飄々としてるはずなのに、おとなしいというかなんか違和感ありまくりで……不自然っていうか? え、もしかして偽物? ドフラミンゴがやるように絡んでみたのはいいけどおれが反応するなんて思ってなくてこんなしどろもどろみたいになっちゃってんの? ……いや、偽物を海軍本部に連れて来させたら問題だろ。絶対にバレるし。そもそもなんだってドフラミンゴは海軍本部にいるんだろうか。おれと違って普通に航海できるはずだから、ドフラミンゴはなにかしらの理由があって来たと思うのだが……ていうかこいつ自分から話振っといて全然話さないな。……仕方ない、おれは年上なんだし気を遣ってやるか。


「お前は何の用があってここに来たんだ」

「あ? まァ、大した用でもねェよ。センゴクが必要書類を出せってうるせェんでな……部下に行かせてもよかったんだが不備があったとき面倒くせェし、おれが来ねェと思ってるとこに乗り込んでやったら驚く顔の一つでも見れるかと思ってよ」


 あ、わかったこいつ今暇人なんだな。んで暇だったからうろうろしててたまたまこの部屋に入ってきたってなことなんだろう。落ち着きのない子供かよ……いや、あながち間違ってなさそうだけど。なんてったってピンクの羽根のコート羽織ってるくらいだからな。可愛い子供か! ……なんかおれのツッコミがおかしい気がする。落ち着くべきなのはドフラミンゴじゃなくておれの方なのかもしれない。そうか、という意味を込めて頷くと、ドフラミンゴは本来の調子を取り戻してきたらしく、ニヤニヤとよく見知った笑みを浮かべ出した。


「お前の方はどうなんだ、“鷹の目”」

「たまたま近くを通りかかったら飯に誘われただけだ」


 それ以上の理由など特にないし、実際おつるさんに誘われなければ来なかっただろう。さすがに七武海の称号を持って海軍本部の中をうろうろできるほど神経は図太くない。海賊の代表格が海軍本部の中うろついてたらそりゃあまずいだろう。おれが脳内で一人うなずいていると、ドフラミンゴの機嫌がやや下がり気味になっているのに気が付いた。……おれが思考に意識を飛ばしてる間にいったい何があったというんだ……。苛立っているとまでは言えないが、不機嫌にメーターが傾いていることには違いないだろう。いきなりなんだってんだ、と思ったが、ドフラミンゴはまだ笑っているので問題なかろうと決め込むことにした。やぶへびはごめんだ。
 このまま会話がなければそれはそれでいいと思っていたのに、ドフラミンゴのやつはそれを許してはくれなかった。少々真剣そうなかおをしてくるものだから、おれも一瞬身構える。


「なァ“鷹の目”」

「なんだ」

「おれが飯に誘ったらどうする?」


 ……突然どうしたんだろうか、こいつ。もしかしておれを飯に誘う予定があるのか? もしそうだとしたらご勘弁願いたい。どうせ会話もこんな感じで楽しいとは言えないだろうし、何を考えてるのか勘ぐりまくりながら飯を食うのはすごく嫌だ。しかしながら、お前との飯なんか食うか! と言ったらただでさえ機嫌がよろしくないドフラミンゴの機嫌を余計に損ねることになるのは火を見るよりも明らかだ。なのでおれはとても言葉を選んだ。すっごく選んだ。


「……時場所場合による」


 選びすぎて最終的に解答が若干変なところに着地した。TPOかよ! タイム、プレイス、オケィジョン……大事なことですよね。社会人かよってツッコミを誰かに入れてほしい。きっと現代日本人にしかわからないネタだというのに、妙な羞恥心が湧いてくる。幸い顔に出るような柔な表情筋はしていないので問題はないが、内心は羞恥に打ち震えている。……自分で言った言葉だが口の中にしまってしまいたい。そんなことをおれが思っていることなどわかっているはずがないのだが、ドフラミンゴは口元を押さえて笑い始めた。何が楽しいんだこいつ……。


「……フッフッフ!!」


 随分楽しそうにおれの方に目線を向けてきたかと思うと、びしっと指をさしてきた。……何事ですか? もしかしておれ操られちゃったりする? 怖いので指に覇気をまとわせて身体の近くで軽く振ってみると、ぱしんぱしんと何かが切れる音がした。こ、こいつ……マジでやってんのか……。おれの勘も捨てたもんじゃないな、とかそんなこと考えている場合ではない。やっぱドフラミンゴは信用できないようだ。
 おれがそんなふうに思っていてもお構いなしにドフラミンゴは立ち上がって近づいてくる。のっしのっしという効果音が似合うふうな歩き方で、こちらに向かってくるとおれの目の前で足を止めた。仮にドフラミンゴが殴りかかってきても能力を使って来ようとも、おれが武装色の覇気をまとう方が早いと思うからそこまで緊張はしていないが、ドフラミンゴが何をしたいのかまったくわからない。ニヤニヤとしながらさきほどおれに攻撃を仕掛けてきた手を顔に向かって伸ばしてくるものだから、その手をばしんと叩き落とした。いくら攻撃されても大丈夫だからと言って仲良くもない人間に顔を触らせるような趣味はしていない。叩き落したというのに、ドフラミンゴは相変わらずとても楽しそうに笑っていた。


「フッフッフ、面白ェ!」

「……おれは何も面白くないがな」

「あー? 冷たいこと言うんじゃァねェよ。鳥同士、仲良くしようぜ?」


 たしかにおれはホークでお前はフラミンゴかもしれないが、まったくもって納得できない。同じ鳥にしたって違いすぎるだろう。餌でピンクになるような鳥と一緒にするな、とまでは言わないが、仲良くするに至るとも思えない。おれは一つため息をついてドフラミンゴから目を逸らす。ここまで色々と話してやったんだ、もういいだろう。あー早くおつるさん帰ってこないかな。あっ、おつるさんも鶴で鳥だ……。


「おいおい、無視すんじゃねェよ。早速飯でもどうだ?」

「断る。大参謀と飯の予定だ」

「おつるさんとか。じゃあ三人で」

「断る」


 何がじゃあ三人で、だ。お前、前にもマイエンジェルおつるさんとの食事会邪魔しただろ。絶対にお前と食事になんか行くもんか。しかしながら帰ってきたマイエンジェルはそんなおれの心情を考慮してくれることなく、三人で飯を食うことになるだなんて、一体だれが予想していたと言うのであろうか……。

鷹は落下に気付かない

ミホーク成り代わりでドフラミンゴ@匿名さん
リクエストありがとうございました!



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -