まだ戦っている音が響いていたから、まずブルーノのところに行った。なんにせよブルーノがいなければ砲弾の嵐を避けられないと踏んだからである。しかしブルーノが倒れていたはずのところには、誰もいなかった。あれま、もう起きてるのか。やられてもさすがCP9というところか。
 あまり動くのは得策ではなかったのか、と頭を悩ませながらも早く合流せねばと足を動かした。そうして皆がやられているはずのところを回ってみても、誰もいなかった。……うん、あれだ、いつも皆を回収してるのはブルーノだったから、やっぱり待っているのが正しかったらしい。頭を痛めながらも、ルッチのところへ向かうことにした。戦いがまだ終わっていないのなら、ルッチと一緒にブルーノに回収してもらえることだろう。それにしても外がうるさい。バスターコールをあれほどするなと言っておいたのに、やはり無駄に終わったようだ。
 たしかルッチがいるはずの第一支柱に行くための道は寸断されていた……んだったか。うまく思い出せなくて時間を短縮するためにも、なるべく目立たないようにしながら月歩を繰り返して第一支柱へたどり着いた。


「……いかん、バッドなタイミングじゃわい」


 ちょうど麦わらのルフィとルッチが床に転がっているところだった。もう少し遅い登場でなければならなかったのに、降り立ってしまったからにはいかんせん周りの注目が集まってしまう。このあと、麦わらのルフィはどうなるんだったか。海軍は「あれは誰だ!?」なんていう下っ端の声が主で、集中砲火は免れないようだ。暗殺者の顔が割れてるのは都合が悪いのでわかっててほしいとは思わないが、今集中砲火を食らったらさすがにルッチを守り切れる自信はない。面倒だから抱えて飛び降りるべきか? そんなことを考えていると耳に麦わらの声が聞こえてくる。


「鼻の、やつ……!」

「お前さんのとこの狙撃主も鼻のやつじゃろうて」


 声をかけられては反応しないわけにもいかず、ちらりと視線を向けてから荷物をルッチの傍におろし、麦わらのルフィに向かって歩き出す。必死に身体を動かそうとしているのはわかったが、どうやら少しも動かないようだ。逃げてもらわんとこっちの立場としても困るのだがそれすらできないのか。海軍もCP9の一員だと気が付いてきているし、さっさと逃げてくれないと殺さねばならなくなる。しかしそれではロロノア・ゾロとの約束を破ってしまうことになりかねないのだ。
 ざり、と砂を踏みつぶす音。仕方がない……一か八か、やってみよう。こいつに限って運悪く死ぬだなんてこともあるまい。襟元をつかみあげて、麦わらのルフィを持ち上げる。ささやかな抵抗さえなく、ぶらぶらと揺れている。本当に力が入らないらしい。


「離せよ……!」

「ばかもん。離したところで集中砲火じゃ。……お前さんの仲間、泳げるやつはおるな?」

「え? いるけど……それがなんだってんだ?」

「こういうことじゃ」


 きょとんとした麦わらのルフィを軽く上に放り投げると同時に腰に差していた刀を思い切り振るった。鞘から抜いていないため、さながらバットの要領で麦わらのルフィを殴りつけた。ちゃんとやってますよ、ってなポーズだ。そしてそのまま麦わらのルフィはフェードアウト。海へ落下。ぎゃあぎゃあと悲鳴が聞こえたが、砲弾が水に沈む音はあれど、人間が水に沈む音は聞こえなかった。驚いて見に行くと、下に船があったらしくそれに乗れたようだ。


「なんちゅう強運じゃ」


 ロロノア・ゾロに二十二回負けたように、麦わらのルフィもこのように二十二回逃げたのだろう。海軍の連中はこちらから向こう側に標的を変え、またどんぱちを再開させた。まあ、もうこっちには関係のないことだ。死にかけている、とまではいかなくともひどい怪我を負っているルッチの傍に近寄ると、空間に隙間が空いているのが見えた。おお、ナイスなタイミング。目があったブルーノに荷物を押し付け、ルッチを抱えてエアドアの中へとお邪魔する。中には全員の姿があった。


「そろいもそろって怪我人ばっかじゃのう」

「カクてめェ! 無事だったのか!」

「見ての通りじゃ、ぴんぴんしとるよ」


 ルッチを適当な場所に下ろして、もう一度周りを見渡す。意識がないルッチが一番ひどいが、本当にそろいもそろってひどい怪我をしていて今までの二十二回を思い出した。……むしろ、皆にもきちんとやれと伝えておくべきだったのか、とちょっぴり後悔が生まれたりもした。
 なにせ怪我をしてない自分のことを心配したと、よかったと言ってくれるのだ。いくらロロノア・ゾロに勝ちたかったからとはいえ、自分のことしか考えていなかったのだと改めて思い知る。持ってきた救急道具を渡して個々人に治療させる程度では、とても返せない恩のようなものを感じてしまう。とはいえ、そんな罪悪感は説明のしようもないのだけれど。
 手当てを終えて、全員がすこしほっと息をついて、それから話し合いになった。これからのことについて、である。


「おれたち、こんなとこにいるけどよ、普通に海軍に保護してもらえばよかったんじゃねェか?」

「……意外じゃのう、ジャブラの口からそんな言葉が出るとは」


 海軍と政府は似て非なる組織だ。海軍の連中を格下として扱っている節のあるジャブラが“保護”だなんて言い回しをするとは到底思えなかったのである。カリファは驚くようなこともなく、ジャブラの言葉を否定した。


「私たちは道具扱いなのだから、多分、保護じゃすまされないわ」


 暗い顔をするわけでもなく、ただ淡々とそう言うカリファの言葉には説得力というよりも覚えがありすぎた。だてに二十二回、長官に裏切られてきたわけではないのだ。道具ということは自分が一番よく知っている。ジャブラもそんなことはわかっていたのか、なんとも言いきれない顔で「言ってみただけだ狼牙」なんて言葉を返している。


「長官に責任押し付けられるじゃろうなァ」

「あ!? これがおれらのせいだってのか!? それはあんまりだろ!」

「長官ならやりかないと思うぞ」

「……そうね、そういうところばかりうまいからあの人」


 はあ、とカリファが嫌そうにため息をつく。ジャブラも苦い顔をしてため息。ブルーノはいつもの顔でため息をついて、でも悲観的な空気ではなかった。「いつものことじゃろ」と言えば、フクロウとクマドリが笑った。カリファもブルーノも仕方ないとばかりに笑って、ジャブラも豪快に笑う。妙に朗らかな気分だった。ちらりとルッチに目線を向ける。今意識があったら、ルッチも笑ってくれるだろうか?
 しばらく談笑したのち、ブルーノが外を確認した。最早瓦礫しかない廃墟と化したらしい。無傷の自分がルッチを抱え上げて、外に出る。二十三回目の、見慣れた廃墟だった。それを見ていたらなんだか笑えてきてしまった。ジャブラがぎょっとした顔でこちらを見てくる。


「なんだ、ショックで頭いかれちまったか?」

「違うわい。なんか、こんなところに縛られてたのが馬鹿らしくてのう」


 なんにも残っていないここを守っていた二十三回がとても馬鹿らしいものに感じてしまった。ジャブラはすこしの間のあと、「だなァ」と言って笑った。

けだるい島をぬけだして

カク成り代わりの続き、相手はゾロでもCP9の誰かでも@匿名さん
リクエストありがとうございました!



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