性的(R17)くらいにお下品な話。特殊性癖(SM等)の要素を含みます。嫌な予感がした方はブラウザバック推奨。



 男同士でありながらもナマエに告白紛いの行いをし付き合ってから三か月ほどの後、おれは非常に苛立っていた。何せナマエが手を出してこない。元々『気後れしちゃうから』というわけのわからない理由で、娼婦でなく男娼を買って抱くような男であったため、今更男がダメだとかそういう話でもなければ、がたいのいい男を買うこともあったためおれの見た目がダメということもないはずで。なのに一向にナマエは手を出してこないのだ。キスはした。ガキみたいに照れるところを思い出しはするが、しかしそれだって触れるだけのものではない。別に経験がないわけでもとりわけ初心なわけでもない。良い雰囲気になっても怖気づいたように逃げる。──そんなことを繰り返されたら、もう限界だった。

「どういうつもりだナマエ」
「な、何が……?」

 仕事帰りに家に連れ込み、景気づけに酒をこれでもかと呷り、ナマエを床に押し倒して問いただした。ナマエはすこし顔色を悪くさせている。何を言われているのか、わかっているのだろう。キスをして、酒臭い唾液をナマエの口に移しこんでやれば、ナマエはそれをごくりと飲んだ。普通なら、興奮するはずだ。恋人にこんなことされて、ここには他に誰もいなくて、けれど、ナマエの下半身はぴくりとも反応しない。べったりと足を乗せているからわかる。ナマエはおれに欲情していないのだ。なんだか情けない気持ちになってきて、ナマエと目を合わすこともできない。

「……お前、おれが可哀想で付き合ったとか、そんなか?」
「えっ、そんなわけない! おれは、」
「ならなんで抱かねェ」

 本当に情けないことに、自分の声はひどくか細い消え入りそうなものだった。男娼を買っていることからもナマエは勃起機能障害などではありえない。男娼相手ならできて、どうしておれ相手ではそんな素振りも見せない? 一度考え始めたら、駄目だった。おれは、とてもみじめだ。馬鹿みたいにみじめだ。ナマエは、小さく謝った。もう駄目なのだ、やはり同情で付き合ったのだ、と思ったおれに突き付けられたのは、とんでもない事実だった。

「おれ、人を殴らないと、勃たないんだ」

 ナマエの告白に「は?」と驚いて間抜けな面をさらした。ナマエは男らしい顔を困ったようにへにゃりと歪めて起き上がると、言いたくもなかったであろう秘密を全部おれに打ちあけた。人間を殴ったような感触がないと勃たない変態であること、多少でも怪我していればそれだけでも興奮しなくもないこと、女を殴るのは気が引けて男娼しか買わなかったこと、おれのことは本当に好きであること、好きだからもしかしたら殴らなくても大丈夫なのではないかと思ったこと、けれどそうはいかなかったこと。ナマエは泣きそうな顔で笑う。

「ごめんね……別れようか」

 その言葉には暗に嫌でしょうこんな変態はという意味も込められていたし、おれにはお前とそういうことはできないんだという意味も込められていて、笑ってしまった。馬鹿だ。目の前に、馬鹿がいる。ナマエは困惑しておれを見てきていた。その顔を思い切り掴んで、睨みつけてやる。

「馬鹿にするな」
「えっ、あ、あ……え? そんなつもりは、」
「てめェの性癖くらい、受け入れてやる」

 言えばナマエはこれ以上は無理というほど目を見開いて、それから泣きそうに顔を歪めて首を振った。自分の性癖がどういうものか理解しているからこそ、おれをそういう目に合わせたくないと考えてのことなのだろう。愛されているのだ。それだけで十分である。たとえ殺されようが、使い捨ての男娼など、この先抱かせてたまるか。この男は、おれのもんだ。ナマエの手をつかむ。どくどくと脈を打つナマエの腕を、自分の身体に寄せる。

「好きにしていい、頑丈なのは知ってんだろ」

 そのときはじめて、ナマエという男の顔が欲に濡れるところを見てしまった。

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 自分の喉からは嬌声にも悲鳴にも似た声が出そうになって、それを必死に押し殺した。使われていない倉庫とは言え、廊下を人が通らないとも言えないからだ。誰かに見つかろうものならおれもナマエも終わりである。けれどもひとしきり殴っておれを痛めつけたナマエは、身体にできた青痣や赤く腫れた皮膚に触れながら、はあはあとわかりやすく息を荒らげ興奮した様子でぐりぐりとおれのいいところを突いてくる。ナマエが怪我をして帰ってきたおれを見るといつもこうだ。大丈夫かと質問した後はそこらへんにおれを連れ込んで行為に及ぶのである。傷がすぐに治ることなどないのだし、せめて家に帰るまで待て、と思うのだけれど長年抑圧されていたものを解き放ってしまったせいか、ナマエは我慢が効かない。

「スモー、カ、っは、あ、ごめっ、ごめん、ねっ」
「んッ、ぐっ……あ゛ッ!」

 作ってきた傷に指を這わせ、好き勝手にケツの中をかきまわして、挙げ句ごめんねと謝りながらも絶対にナマエはやめようとはしなかった。いつしか考えたことがある。ナマエは何に謝っているのだろう? 普通に考えれば殴ることに対してだ。少しずつそこから発展させていくと、殴って興奮していることに対してになり、最終的には殴って興奮してそれがいけないことだとわかっているのにやめる気がないこと、という結果に落ち着いた。……なんと愚かで、可愛いやつだろうか。
 ナマエの変質的な性癖のことはおれにも正直よくわからない。おれには殴って性的な興奮をするなんてことは一度だってないし、殴られて興奮する趣味も結局のところないのだ。けれどナマエがおれを殴っただけで興奮するというのなら、それでいい。寧ろナマエのことを縛れる絶好の首輪を手に入れたと言えるだろう。ついでに言うのなら、ごめんねと謝られながらセックスをするのは嫌いではなかった。すこし罪悪感の浮かぶ顔も、それ以上に欲情している顔も、──そそるのである。
 殴られすぎて、頭おかしくなっちまったか。結局、はじめに修羅場を乗り越えたせいか、ナマエとの付き合いは最早数年に達していた。その分身体を痛めつけられたのだから、頭もどこか変になっていてもおかしくない。けれど、おれはそれでもよかった。ナマエを独り占めできるのならば、それでいい。
 ナマエのやつはいまだ好き勝手に行為を続けていた。「ごめ、っは、あ、! すき、ごめ、」。必死に声を塞き止めていた唇が笑う。

ばかだよほんとにね

相手をぼこぼこにしないと興奮しない男主と好きだから受け入れる心の広いスモーカーさん。年齢制限のある話でも@やまさん
リクエストありがとうございました!



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