殊更今更(短編)→いくつ歳をとっても(略)っていうありきたりなやつ(1000)→ぼくたちはまだまだお若いようで(5000)のifで男主×先天性女体化ドフラミンゴです。苦手な方はご注意を。


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 妻との──元妻との離婚が成立して、親友であるドフィの家に転がり込んで、まあ、親友と言えど男と女だったわけでして……絶対にないと思っていたのにおれとドフィは恋人ということになっていた。昔からの共通の友人であるヴェルゴや昔からおれたちを知っている可愛い後輩であるローは、寧ろ結婚するのはおれとドフィだと思っていたと、しっくりくると言っていて驚いたものだ。たしかにドフィとはものすごく仲が良くてべったりだったし、お互い恋人がいなくても楽しかったりしていた。今だって実際のところ日常生活で特に変化はないし、たまに二人きりで一緒のベッドで寝るようになっただけだ。……もちろん、ソウイウ意味で。
 変化なんてそんな程度で恋人になってすこし娘のことを心配したけれど、ドフィは元妻の娘であっても特に対応を変えるわけでもなく受け入れてくれたし、娘もドフィを気に入っている。元妻とドフィの髪の色や目の色が似ていたこともあり、三人で連れ立って歩く姿はどこからどう見ても親子にしか見えないだろう。何の問題もないようで嬉しかった。
 それでもさすがに籍を入れることはこわくてできない。ドフィがまさかそんなことをするとは思えないし疑っているわけでもないのだが、もしかしたら男としてのおれにすぐ飽きてしまうかもしれないのだ──元妻がそうしたように、おれ以外の男と関係を持ってしまうかもしれない。だったら、結婚はしないでいた方がいいんじゃあ、ないかと。ドフィも下手にバツをつけるよりいいだろう、というのは何とも逃げ口上で、結局おれの逃げ道なのだ。少なくとも事実婚の関係であれば、男としての魅力がおれになくなっても親友だったわけだし、親友には戻れるんじゃあないかと……。
 そんななんとも情けのないおれの考えを、ドフィはお見通しだったようで、でかける支度をしているときにずばっと言われてしまった。


「ナマエ」

「ん?」

「浮気なんてしねェ、他にも靡かねェ、と言ったところでお前が納得できねェのはわかってるし、別に結婚しろだなんて言うつもりはねェ。安心しな、結婚なんぞしなくてもお前の傍にいてやるぜ」

「……良い女すぎて惚れ直した」

「フッフッフ! そうだろ!」


 上機嫌に笑うドフィに軽く触れるだけのキスをしていると、いつの間にか部屋に来ていた娘がじいっと見上げていた。地味に恥ずかしい。すこし顔が熱くなると同時に、またも楽しそうに笑うドフィの声。娘もつられたように笑い出した。まだ一緒に暮らしてから大した期間が経ったわけではないが、娘の笑い方がドフィに似てきている。フッフッフ、ってどうなんだろ。今はとても可愛くていいけど、年頃になったとき困るんじゃ……。
 そんなことを考えながら近くのショッピングモールにでかけるべく車に乗り込んだ。おれが運転、後ろにドフィと娘である。チャイルドシートをつけていても子供を一人にするのは何かと気になる、ということで、ドフィが娘を見ていてくれるのだが、……もしかして娘っておれより愛されてるのかもしれない。
 ショッピングモールに着いて、買いたいものを買うべくあちらへこちらへと行ったり来たり。ある程度買い終わり、休憩ついでに食事をしていたらドフィが急にハッとした。


「……買い忘れた」

「何を? おれ買って来ようか?」

「お前が買いづれェものだよ」

「買いづらいもの……?」


 なんだろう、とおれが考えている間にドフィは素早くおれの耳に唇を近付けて「生理用品」と呟いた。そりゃあおれが買いづらいもの、というか、何をどう買っていいのかわからなくて困る。「ちょっと行ってくる」とドフィは立ち上がって店を出て行った。娘は不思議そうにドフィを見ながら「ママどこいったの?」と首を傾げている。……ん? ママ、だと……!?


「い、いま、なんて言った?」

「? ママどこいったの」

「ママってドフィの……ことだよな?」

「そうだよ」


 娘はおれを見上げながら何言ってんだこいつ、ってな顔をしている。まだ子供なのになんでそんな顔ができるんだかわからないが、ドフィのことをママと呼ぶことについてで頭の中がいっぱいになってそれどころではなかった。これは……喜んで、いいんだよな? 多分、呼ばれることになるだろうから、そのときにドフィに本音を聞いてみよう。嘘ついたらわかると思うし、……それがいい。一人でうんうんと頷いていると、何が面白いのか娘が笑い始めた。やっぱりドフィの笑い方に似ていて一緒に暮らすことの偉大さをよく理解した。
 食事が終わってしまってもドフィは戻ってこなかった。携帯を見てみても連絡は入っていない。生理用品を買うことでそんなに時間がかかるとは思えないし……どうかしたのだろうか? 少し不安になってくる。メールを打って数分しても、連絡は来ない。


「ママおそいー」

「……見に行ってみるか?」

「いくー!」


 幸いなことにドフィは食事が終わっていたし、この店の外にいれば行き違いになることもないだろう。娘を抱えたまま店を出て、カートを押しているとなんだか怒鳴り声のようなものが聞こえてきた。声の方に目を向けると人だかりができていた。どうやらそこの中心にいる人物は随分とヒステリックになっているらしく、きいきいとした声をあげている。おいおい、こんなところでそんなことするなよなァ、とあきれた気持ちになりながらもため息をついた瞬間、その中心にいる人物の一人がドフィだったことに気が付いて目が点になった。絡まれてたのか……!
 娘を連れて行きたくはなかったが、ドフィをないがしろにするわけにはいかない。おれがその人だかりの中心に向かって歩き始めると、胡乱な目をした人々からの視線を浴びた。……ああ鬱陶しい。人だかりの中心に近付くと、ドフィもこちらに気が付いたようでぎょっとした。それから口を来るな、と動かしているのが見え「ナマエくん!」……は? おれが目蓋を開閉していると、ドフィを怒鳴りつけていた女がおれの方に駆けよってきた。


「ナマエくん、ごめんなさい! ちがうのよ!」


 おれに縋り付いて何やら言ってくる女は、話を聞く限り元妻であることがわかった。けれど、見た感じではまったくわからない。正直こんなに顔が変わるものなのかと驚くほど、がりがりに痩せて別人になり果てていた。たしかに彼女はおれのことをくん付けで呼んでいたし、おれと彼女のほかが知る由もないようなことまで知っていた。だから目の前の女が間違いなくそうなのだろう。しかし、……というよりはだからこそ、もう関わり合いにはなりたくなかった。浮気もそうだが、こんな公共の場でドフィに食って掛かるような人ではないと思っていたのに……。ため息を一つ吐いて、つかみかかってくる手をほどかせて、元妻を見下ろす。


「やめてください、人違いでは?」

「え、そ、そんな……何言ってるの?」

「おれはあなたの言ってるナマエくんとやらではありません。彼女も迷惑していますし、娘も怖がっているのでやめてもらえませんか」


 こんな面倒事に付き合うのははっきり言ってごめんだ。周りから嫌な注目を集めているし、さっさとこの場から立ち去りたい。意味がわからないという顔をした元妻が娘に手を伸ばそうとしたら、娘は大いに泣き出した。あまりにも顔が違うからわからなかったのだろう。元妻は困惑している。ドフィが女とおれの間に割り込んで、ぎっと睨みつけた。


「触んじゃねェよ」

「わ、わたしの娘なのよ!?」


 ドフィが何かを言おうとした瞬間、娘がドフィの服をつかんで「ママぁ」と泣いた。驚くドフィと元妻。そりゃあ、そうだよなァ……タイミングがいいんだか悪いんだか、娘のおかげで元妻はかなりヒステリックになってドフィに掴みかかろうとした。おれは慌ててドフィに娘を抱かせて元妻を押さえつける。周りにいた人も何人か元妻を押さえつけるべく来てくれて、そうこうしているうちに誰かが呼んできてくれたらしく警備員さんが現れた。元妻はすこし可哀想だが頭のおかしな女として連れて行かれる。周りからは妄想女に纏わりつかれた被害者のように扱われ、同情の声をいただいた。ようやくその人だかりから抜けて、駐車場までたどり着く。……どっと疲れた。振り返るとドフィに抱えられた娘は泣き疲れたようで眠ってしまっていた。


「ドフィ、その、悪いな」

「フッフッフ! お前が悪ィんじゃあねェし、大したことでもねェ。気にするな」

「……ありがとう」


 絶対に嫌だがもしもこんなことが続くようなら、警察沙汰も考慮しなければならないかもしれない。そう考えるととてつもなく疲れる。離婚してからも面倒事があるだなんて……。頭が痛くなるような気がした。が、ちゅ、と頬に柔らかい感触がしておれはまばたき。ゆるゆると顔を動かして横を見てみると、ドフィが穏やかに笑っていた。

きみがいてくれてよかった

殊更今更のドフラミンゴ女体化で元妻が現れる@匿名さん
リクエストありがとうございました!



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