ルッチは、ゼクスが嫌いだ。ゼクスはいつも任務から帰ってきたルッチを後ろから捕まえてそのまま自室に連れ込み、顔中にキスをした挙句、好きだ好きだと言いながら服を脱がして好き勝手な行為に及ぶ。自分のしたいように、自分が気持ちよければなんでもいいと言ったふうなルッチのことを一切労わらない乱暴なセックスだというのに、元々尋問や拷問の部署で働いていた頃の手練手管のせいで、それが気持ち良くてたまらないどころかゼクスとのセックスでなければ感じなくなってしまった。自分がゼクス専用にされてしまったようで、それがとても気に入らない。そして何より嫌いなのが、 「ルッチとのセックスが一番いいよ」 という言葉である。セックスの最中にその言葉を吐かれようものなら、どれだけ気持ちがよかろうとゼクスの顔に一発叩き込むくらいは嫌いだった。デリカシーがないにも程がある言葉。一番があるということは二番があるということで、ついでに言えばセックスの話しかできないのかと腹が立つ。 一応これでもルッチとゼクスは恋人という関係にある。そうでなければいくらゼクスがそれなりに力のある諜報員と言えどルッチが捕まってやることもしないし、そもそもセックスをさせることなど許さない。一般的な恋愛感情というよりは独占欲という方が正しかったが、どちらにせよゼクスが欲しいということには変わりなかった。経験豊富そうなゼクスも恋愛には疎く、好きになったのはルッチが初めてで「おれだけ見ててね」などと言う。にもかかわらず、そんな言葉を吐くものだから、ついにルッチは口に出してしまった。 「……いい、加減にし、ろっ!」 「いって! ……あー……と、何を?」 ベッドの中で後ろから盛っていたゼクスは顔面に肘鉄を受けて行為を中断させられ、きょとんとした顔をしていた。何を言われているか全くわかっていないという態度に、ルッチは頭に血がのぼっていくのがよくわかった。自分が発した言葉も理解できていないらしい。けれど一番と言うな、とはっきり言えるのならルッチもとっくの疾うに言っている。妙なプライドが邪魔をするということもあるし、注意したからやめたのではなく自分で気が付いてほしいということもある。ついでに言うのなら、ゼクスがしてきた自分以外とのセックスは仕事だということもわかっており、それが余計に本心を言いづらくさせていた。 「おれ、何した?」 ゼクスが後ろからルッチを抱きしめて不安そうな声を出すものだから、ルッチはゼクスの言葉に頭に来ているというのに少しだけ自分の方が悪いことをしているような気にさせられる。元々何を言うつもりもなかったルッチはゼクスの頭を軽く叩いて「なんでもねェ」と言って誤魔化すことにした。けれどそんなに簡単に誤魔化されてくれるわけもなく、ゼクスは小さな声で「嘘」と呟いた。 「マジのトーンだったし、思いっきり肘鉄入れられたし、なんかある」 「……抱きたいんじゃなかったのか。する気がねェなら風呂に入って寝るが」 「嫌だ」 「じゃあ、」 「でも最中に違うこと考えられてたらもっと嫌だ。ルッチがおれのことだけ考えててくれなきゃ嫌だ」 それはこっちの台詞だ、と言いたくなるようなワガママな言葉に、ルッチはため息を吐く。ゼクスは何もわかってない。正直に言ってしまえば、セックスをしている最中に他のことを考えられるほどの余裕は、ルッチにはない。ゼクスから与えられる快楽を受け止めるだけで精いっぱいなのである。ゼクスさえ変なことを言わなければ、ルッチは他のことを考えなくて済むのだ。 ルッチは少し力を入れてゼクスを引きはがした。それが拒絶の意だと勘違いしたゼクスはすこしばかり暗い顔をして俯いた。ルッチは起き上がると、ゼクスの顔を思い切りつかんだ。上を向かせ、暗い部屋の中でまっすぐに見つめ合う。 「だったらお前もおれだけ見ていろ」 ぽかん、と間抜け面をしていたゼクスが「いつもそうなのに、」と減らず口を叩くものだからルッチはその口を塞いでやった。滅多にないルッチからのキスにゼクスはすこしばかり動きを止めてしまったが、そのままベッドへと倒れこむようにルッチを押し倒す。唇が離れると視線が絡んだ。ゼクスは先ほどまでの暗い顔などどこへやら、嬉しそうに頬を緩ませていた。 「ルッチ、」 「……なんだ」 「ほんと好き。超好き」 「バカヤロウが」 ルッチは、ゼクスが嫌いだ。ゼクスはいつも任務から帰ってきたルッチを後ろから捕まえてそのまま自室に連れ込み、顔中にキスをした挙句、好きだ好きだと言いながら服を脱がして好き勝手な行為に及ぶ。自分のしたいように、自分が気持ちよければなんでもいいと言ったふうなルッチのことを一切労わらない乱暴なセックスだというのに、元々尋問や拷問の部署で働いていた頃の手練手管のせいで、それが気持ち良くてたまらないどころかゼクスとのセックスでなければ感じなくなってしまった。自分がゼクス専用にされてしまったようで、それがとても気に入らない。何より他者と比較されることが気に入らない。 それでもゼクスからはルッチがたまらなく好きだということが、それこそ嫌というほど伝わってくるから、ルッチはゼクスが好きだ。 もだもだ |