ルッチさんに演奏させられて名前聞かれてついでに電伝虫の番号まで聞かれたメアリちゃんでっす!
 あかんこれあれだわ、楽器扱いされてるわ。気に入られたのは嬉しいけどおれルッチさん苦手なんだってば〜。定期的に呼び出される未来しか見えないのに、何かただならぬ気配を感じて正直に電伝虫の番号を教えてしまった……めっちゃ怖い。あの人と二人になったらマジで会話弾まなさそうだし勘弁してもらえませんかね! 電話が来ないことを祈りつつ、部屋に入った瞬間電伝虫が……鳴りました……。まさか、ルッチさんじゃねえだろうな……白目になりそう。
 おそるおそる受話器を取って「はい……?」と声を出してみると、すこし間があいて、それから声が聞こえてきた。最後の夜、予想外のところからの電話だった。


『……メアリか』

「そうです。サカズキさんですか?」

『……ああ』


 声ちっちゃ! ガープさんと反対に妙に声の小さいサカズキさんに、おれの頭の上でハテナマークが乱舞する。電話してきてくれたのはすっごい嬉しいんだけど、どないしたんそんな小さな声で。


「どうかしましたか? あ、もしかしてクザンさんのお仕事を引き受けている関係でわからないことでもありましたか?」

『いや、それはない』

「それでは、えーと、心配してくださったとか?」


 だけどそれにしちゃあ遅いっていうか。初日に電話かかってくるんならまだしも、今日電話かけてきてもだな……もう何かあったんならどうにもならないし、明日帰るから何かあったとしてもそれで終わりだしな。
 サカズキさんにしては珍しく口篭っているようで全然言葉が出てこないようだった。寝そうになりながら次の言葉を待っていると、『それも、あるが』という声に続いて理由を教えてくれた。


『ボルサリーノから聞いた。お前が、わしを心配しとると』

「そうですよ。サカズキさん、ちょっと頑張りすぎじゃありませんか? クザンさんが仕事をしないのはサカズキさんのせいじゃあないでしょう」


 気に病んでますよね、と超弩級のストレートな言葉は避けたが、言いたいことはおおよそ伝わったことだろう。サカズキさんはまた黙り込んでしまう。あれマジでこれガチ病み? もうダメ? 心折れてんの? あのサカズキさんが!? サカズキさん、超メンタル強いんだぞ。なのに病んじゃったの? そこまで気にしてんの?
 ……いや、勝手におれがそう思っただけか。まったくもって考えすぎてである。おれが心配なんだろう、多分。おれもサカズキさんのこと心配してっけどね。


「とにかく、本当に、無理しないでくださいね」

『ああ……メアリ、』

「はい?」

『………………悪かった』


 すんごいたっぷりとした間のあと、サカズキさんがたしかにそう言った。悪かった、と。いや、別にね、多分サカズキさんが全く謝れない人って訳じゃあないと思うんだよ? なんだけどね? これ、すっげえ珍しくない? つーかあれか、要するに謝りたくて電話してきたんだけど、なかなか謝る言葉が出なかったって感じか。でも明日には帰ってくるし、その前に謝っておきたかった。謝りづらくなるもんな……ってさあ……。

 は? 可愛すぎじゃね?

 可愛すぎるだろそれ……謝れないサカズキさんがおれに謝りたくてわざわざ電話してくれたとかあかん、可愛い。疲れてるせいかな? それだけじゃないのかな。おれ今よくわかんないけど、サカズキさんはきっと、ものすごく可愛い生き物なんだと思う。返事をするのが遅れると余計に気にするだろうから、おれは早速口を開いた。


「気にしてませんよ。いい勉強になりました」

『じゃが、お前も疲れとった。それに誰も知らんところに一人で連れて行かれたのはわしのせいじゃ』

「それでも気にしてませんって」


 もうサカズキさんのせいじゃないとは言うまいて。だけどな、気にしてるわけじゃないんだってば。サカズキさんのことを責める気もなければ、恨んでも憎んでも怒ってもいないんだよ、おれは。でもサカズキさんは納得いかないようで黙り込んでいる。サカズキさんって本当にストイックっつーか真面目っつーかさぁ……他人にも厳しいんだけど、自分にもマジ厳しい人だよね。
 こりゃあおれから何か譲歩しないとどうにもならんな、とため息をひとつついて、サカズキさんに提案することにした。


「なら今度、私のためにお休みを取ってください。サカズキさんのお休みを、ですよ!」

『……それで、どうするんじゃ』

「遊んでください!」

『遊ぶ? ……わしゃ、今どきの若いやつが何をしちょるかなんぞ知らんぞ』

「私だって友だち片手の指より少ないんですから知りませんよ〜! チェスでも将棋でも囲碁でも麻雀でもトランプでもなんでもいいですよ。サカズキさんと私のできる範囲で遊びましょう! ついでにサカズキさんのおうちに招待してくれたらなおよしです!」


 と半ば調子こいたことを言ったら、電伝虫がすこし間の抜けた顔で固まってしまった。お、フフ……どうやらおれのおねだりに驚いたようだな……。サカズキさんの家って興味ない? おれだけ? クザンさん家に招待されたら即部屋あさってエロ本探すけどな、多分サカズキさんの家ってあんまりものないだろうしエロ本もなさそう。ていうかあの人誰かとしたことあんのかな……あるか。あるだろうけど、なんかそういうの想像できない人なんだよなァ、めっちゃストイックだから。
 おれがちょっと失礼なことを考えている間に意識が戻ってきたらしいサカズキさんが、『……そんなことでええんか』と控えめに聞いてきた。おっしゃー! 許可降りたで! サカズキさんの家探検じゃあ!


「もちろんですよ〜! 楽しみにしてますからね!」

『じゃがそれだけじゃわしの気がおさまらん』

「ええー? じゃあ……あと遊園地とかそういうところ行きたいです。どっかにありましたっけ?」


 少なくともマリンフォードにはないし、サカズキさんが遊園地の場所を知っているとも思えないんだけどそう聞いてみた。そういう思いっきり遊ぶとこって昔は別に好きじゃなかったんだけど、こっちの世界来てからは一回も行ったことないんだもんなァ。ちょっと行ってみたい気もするんだわ。


『遊園地……? ここから一番近いところじゃと、シャボンディ諸島にある』

「おお、本当にあるんですね! じゃあそこ行きましょう!」

『…………わしと、メアリとでか?』

「……やっぱり無理ですかね」


 いやたしかにな、サカズキさんが遊園地ってのはかなりギャップがあってな? 本人的にはかなりきついと思うんだよ。でもな、おれ、そんなサカズキさんの姿も見てみたいっていうか! とか思ってみたんだけど、サカズキさんはそれはそれは長い葛藤のあと、『すまん』とだけ呟いた。どうあがいても無理だったらしい。まあ仕方ないわな。サカズキさん有名人だから、遊園地側の人もかなり気を遣うだろう。どっちにしたってサカズキさんと一緒に遊べるんだから遊園地のことは忘れよう──と思ったら、まさかの代案が飛んできた。


『代わりにクザンのやつを連れて行け』

「え? でもクザンさん仕事させたほうが……」

『どうせお前がおらんとまともに仕事なんかせんけえ、護衛もかねて連れてけ』


 あ、それはやっぱり誰でも思うことなんですね。クザンさんはそろそろいい加減真面目に仕事しようか。


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