クロコダイルさんの食器を下げた後、ドフラミンゴさんのも取りに行ったら飯は空だったけどまだセックスしてたぞバーロー! ただし相手は変わってました。どこで調達してんの、この人。正直に言えばちょっと羨ましかったけど、むしろドフラミンゴさんの後ろ姿がさ……正常位だったからケツ出して間抜けじゃん? クソ可愛いわけですよそのケツが……間抜けな挙げ句無防備でさ……お前の後ろに立っているやつは実は男だって食っちまうんだぜ? と一人でテンションあげてしまったよね。
 明日あたりにはシーツ変えないとなーなんて思いながら部屋を出て、食器を片づけたりなんやらかんやらしていたら、あっという間に夜ですよ。できればお客人ふたりが寝てから風呂入りたいなーなんて思っていたら、壁ノック入りましたー。どうやらクロコダイルさんのお部屋からのようだ。
 そそくさと自分の部屋を出てクロコダイルさんの部屋に向かう。ドアをノックして「メイドのメアリです」とお声かけすれば、すぐに「入れ」と声がかかった。失礼しますと定型文を吐いて部屋に足を踏み入れる。特に荒れているわけでもないが、すこし煙たいかもしれない。換気を勧めるべきだろうか。しかしそれだけで機嫌を損ねる可能性もある、どうしようかな……。そんなふうに思っていると、クロコダイルさんはカップを突き出した。


「エスプレッソ、追加だ」

「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」


 カップを受け取ろうと近寄ったら、クロコダイルさんはその手を下ろしてカップをテーブルの上に戻してしまった。そんなことするくらいだったら最初から持ち上げなくてもよかったのに……なにやってるんだろう、この人。手を伸ばそうとしたら、がしっとつかまれる腕。あれ、なんだこのデジャヴュ。「サー・クロコダイル様? いかがなされましたか?」と視線を向ければ、見知った悪人顔がそこにある。特別怒っているふうでも、特別遊んでいるふうでもなく、ただの真顔だ。


「一度部屋を出た、が、ありゃあなんだ。どっかの馬鹿女が盛った声を上げてやがる……てめェらはそんなサービスまでしてんのか?」

「防音設備に関しては申し訳ございません。そして海軍本部ですので、勿論、そのようなサービスは行っておりません。ドンキホーテ・ドフラミンゴ様はご自身で調達されたようです」


 あ、調達って言い方はなんとも悪かったな。棘のある言い方っていうか、突き放した言い方? 私には何にも関係ありませんよーってなのがね、ちょっとよろしくない。だけどクロコダイルさんはその言い回しが気に入ったのか、初めて笑みを見せた。おお……すごい悪いひとの笑い方だ……。それからおれの腕をぱっと離す。どうやら文句を言いたかっただけのようだ。ま、廊下に出て喘ぎ声が聞こえてきたら少なくともいい気分にはならないしな……。
 ──そうやって油断したのがいけなかったのだろうか。首に鉤爪がひっかけられて、勢いよく引き寄せられる。首がひんやりとする、が、それ以上にぞわりとしたものが背を駆け上がる。少しずれていたらずぶりだ。もしかしたら首に穴が開いていたかもしれない。そう思うと背中を冷や汗が流れていく。ぴたりとくっつけられた身体はドフラミンゴさんよりも厚い。顔を上げると、悪い笑顔がそこにあった。とてもとても悪い顔だ。……ぞくりと、する。


「自分で調達すりゃあ、いいんだな?」

「……お戯れを」


 にっこりと笑みを作ってそう答えれば、本当に戯れだったようでおれをすぐに解放してくれる。クロコダイルさんは「クハハ」と楽しそうに笑っていた。おれをからかうくらいだ、よほどお暇だったのだろう。
 もし離してくれなかったらと思うとぞっとする。……結構マジで襲っていてかもしれない。おれはすでに悶々とさせられていたのだ、好みの人間との接触は地味にきつい。中身はおっさんだけど、おれ健全な思春期の身体なのよ!? やめてよね! 当然そんなおれの心情になど気づきもしないクロコダイルさんは、ひとしきり笑い終えたあと、唇にまだ笑みを張り付けたままでおれを見た。


「おい、このあとチェスにでも付き合え」

「かしこまりました。それではエスプレッソと共にお持ちしますので少々お待ちくださいませ」


 することもなく、ただただここで待つのはたとえ一日であるとしても暇だからだろう。お客人の暇をつぶすのもメイドの役目だ。きちっとそのお役目をまっとうせねばなるまい。一度部屋を辞して、ため息をつく。──ああ……なんか疲れた……。


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