走って行って、クロコダイルさんのときのように乱れた息と髪と服を直して、ドアを開ける。よっしゃ、まだ来てねェ。外に出て待機する。ちょっとこの列を組んだ海兵たちにも慣れてきた。ゆっくりとおれの目の前にでかい船が泊まる。でかいな本当……無駄にでかくないかこれ? 海賊船って感じじゃないぞ、なんか。
 そんなふうな感想を持っていたら、先ほどのようにタラップから降りてきたのは下っ端さんだった。その彼にお願いしてどこに泊まるか聞いてきてもらう。おれの顔が超美少女風なせいか、下っ端さんの顔は真っ赤だった。その反応にも慣れたよね。街中で告白されたりとかもあるし。好きって言葉が軽いぜハニー。
 件の下っ端さんを待っていたら、ぬぅんとでかい人影。……うわあ、ピンク率たけェ……。のっしのっしと降りてくる人影に頭を下げる。上げたときにはかなり近くまで来ていた。にやにやとした笑みはともかく、品定めするような目線はどうにかならないだろうか。


「遠路はるばるお疲れ様です、ドンキホーテ・ドフラミンゴ様」

「フッフッフ、本部もいい趣味してんじゃねェか。お嬢ちゃん、名前は?」

「申し遅れました、メアリと申します。この度の手続きにて七武海の皆様のご案内等々を承っております。本部内でのお泊りでよろしいでしょうか?」

「ああよろしいぜ。じゃあご案内よろしく頼むな、メアリちゃん」


 なんかこの人、すごいなれなれし……フレンドリーだな。「かしこまりました。ではこちらへどうぞ」。本部への案内を始めると、さきほどまでのフレンドリーさはどこへやら別に話しかけてくることもなかった。しかし舐めるような視線はこちらに向かったままだ。うおお……品定め感すげェ……今おれはドッグショーの犬の気持ちを思い知らされている……。
 “天夜叉”ドンキホーテ・ドフラミンゴ。七武海という大海賊にしてドレスローザの国王。フラミンゴをイメージしてるのかピンクの羽根のようなコートを着ているのはとても愛らしいと思うが、もふもふしすぎだとも思う。そんなコートを着てるくせに若干チンピラのように見えるのは、おそらく脛毛が見えるような短いズボンなどラフな格好をしているからだろう。そしてサングラスの奥の瞳は確認できないのが気になる。
 うーん、露出が少なかったらもうちょい好みなんだがな……おしい。なんだろ、何してもそこまで嫌がらないだろうなっていう気がするんだけど、だからって言って淫乱っぽい感じでもないし、恥ずかしがるタイプでもないよなァ……? このつかみ損ねてる感じが彼に対して萌えることができない理由か。うーん、見た目も結構好きなはずなんだけどな……あざといポーズとかやってくれたら多分すごい萌えると思うんだが……なんだ、何がいけないんだ。おれの想像力が足りないのか?
 一人で悶々とそんなことを考えている間に、七武海のスペースに着いた。クロコダイルさんはドフラミンゴさんをあまり好ましく思っていないようなので、すこし離れた部屋へと案内しておくことにする。扉を開けて中へご案内すると、すぐさまソファへ腰を下ろそうとした。


「コート、お預かりいたしますか?」


 皺がついたりするようなコートではないが、一応そう聞いてみると何故か手招きをされた。疑問に思いながら近づく──と、にゅっと伸びてきた腕がおれの腕をつかんで勢いよく引っ張った。予想だにしない出来事でもあったし、当然力負けしているおれが踏ん張れるわけもなく、ドフラミンゴさんの胸へとダイブした。
 !! これは! いい! 筋肉ですよ! 奥様! と思ってもさすがにそれは顔には出さない。顔を上げるとドフラミンゴさんはにやにやしていた。うーん、接触している筋肉が気になって集中力が散漫になってしまう……なんでもいいから縛りたい衝動に駆られています……これが、筋肉の力……!


「メアリちゃんが脱がしてくれよ」

「気が利かず申し訳ございませんでした。コートをお預かりいたしますので、お手を離していただけますか?」

「……仕方ねェなァ」


 仕方なくねェよ。腕を離してもらい、おれはドフラミンゴさんからコートを脱がし、クロコダイルさんのときのようにクローゼットに収納した。素材的にはドフラミンゴさんのコートの方が軽いはずなのに、サイズの違いのせいかそこそこ重かった。
 しまい終わったあとは、部屋の説明と行ける範囲の説明をした。でもなんかこの人、守ってくれなさそうだけどね……戯れにメイドであるおれを自分の身体に接触させる人だからね……。この一日、おれはきっちりと気を張っていなければならないということか……うわクッソ面倒くさい。でもあれだよね、一応海兵さんが見張ってるし、平気だよね?
 脳内で海兵さんに仕事を押し付けたおれは、さっさとこの場を辞することにした。クロコダイルさんもお待たせしているし、あまり長居するのはメイド的にもよろしくない。食事の時間は指定を受けたし、今は飲み物はいらないとのことだった。ならばもうすることもない。


「それでは、ごゆるりとお過ごしくださいませ。失礼いたします」


 ゆるゆると手を振るドフラミンゴさんに頭を下げ部屋をあとにしたおれは、音を立てないように気をつけながら近くの給湯室にエスプレッソを淹れに行った。さっさとしないと怒られる。急ぎながらもきちんとエスプレッソを淹れてクロコダイルさんの部屋を訪れると、眉間に皺が寄っていた。ひいいやべェ! と思ったが、クロコダイルさんは意外なことにおれに文句を言うわけでもなくエスプレッソを受け取ってくれた。ついでに聞きそびれた夕飯の時間を聞き、何事もなくおれは部屋を辞して、とりあえずのところの仕事を終えたのであった。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -