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「――おお、よい、よい。異国の客人よ。顔を上げておくれ」

少ししわがれた穏やかな声にゆっくりと顔を上げると、ウルと同じ衣装に身を包み、頭の周りに無造作に織物を巻き付けた小柄な老人はにっこりと微笑んだ。

「私はアルメラス・ユルヌス。アンスル族の長じゃよ」

ウルに支えられながら柔らかい座布団にあぐらを組んだアルメラスは、鈴歌にも柔らかな布が巻かれた座椅子を勧める。
鈴歌はウルが族長の脇の座椅子に腰掛けた後に、そっと腰掛けた。

「改めまして…。私はスズカ・ハヤセ。各地の語学を学ぶためにこの地を訪れまし…」

アルメラスに微笑み返した鈴歌は、アルメラスの呼吸に濁りがある気がして、はっとその喉元を見据える。
アルメラスは鈴歌の視線に気付いたのか、笑みを深くした。

「なに、大丈夫さ。いつものことだよ。私は持ってあと数年…。じゃが、貴殿に会えた…それだけで私は幸せだ」

アルメラスは深く息を吸うと、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「スズカ、私はね、ここにいるウルから何度も何度も、“昔話”を聞かされとった。その昔話は、私ら代々の族長に秘伝で伝わる口承より明確じゃった。口承にはこうある。『八代の巫女、祝福の月を供に永き繁栄と豊潤を拓く』…つまりはこうじゃ、アンスルの八代目の太陽の巫女は、天からの祝福を授かった月の刃と共に数世紀にもわたる繁栄を導いた、と。祝福の月という意味は判らず仕舞いじゃったが、ウルが教えてくれたよ。当時のアンスルでは男性性も女性性も持たぬ半陰陽の子を祝福の子と崇めたと。八代の月の刃は半陰陽の子だったとね。そして、八代の巫女と月の刃の絆も…当時の巫女たちの誇りと覚悟も」

「アルメラス様…」

「…のう、スズカ? 私ら一族は、古代より贄を捧げて平穏を祈願した蛮族だとされとる。ことあるごとに無差別に、無理矢理数多の子供らをほふってきた虐殺の蛮族だと。…だが、ウルはこう言うのだよ。贄は毎年豊穣祈願祭の時に巫女と刃の二人だけ、『代』と記されるのは飢饉の翌年の大祈願祭を任された巫女と刃のみ。そして歴代の巫女や刃たちは誇りを持って自らの命を捧げた、と…」




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