「――で、これが『星』、これが『月』よ」

黒く長い髪を持つ少女は、細い木の枝で地面にさらさらと紋様を描くと、傍らの少年に微笑んだ。

「え、え、ちょ…待ってリュリ。おれ、もうちょっとゆっくりじゃないと…」

少女とそう年が変わらないであろう少年は、うう、と頭を押さえながら目の前の紋様を凝視する。

「あ、ごめんなさい、わたし…」

焦ってしまったのかもしれないわ、そう言ってしまいそうになって、少女は口をつぐんだ。



――あと、二日…
二日後には、少女…リュリはもうこの世にいなくなる。
それは、リュリが五歳になった時…次期太陽の巫女として、中央神殿に上がった時から定められたことだった。







四方を高い山々に囲まれた神殿都市、アンスル。
太古より自然信仰が盛んなこの都市では、人民の誰もが憧れる役職があった。
一つは、豊穣の象徴の『太陽の巫女』。
もう一つは、魂鎮めの『月の刃』。

太陽の巫女は定められた月に生まれた幼子の中から神託により選ばれ、十四の歳を迎えたその日に太陽の花嫁として、東の山の麓の聖なる泉に身を捧げる使命を帯びる。
月の刃は、巫女を捧げる祭祀の最後の役目…巫女をこの世から引き離し、天へと捧げるために聖なる精霊の宿る青銅の剣で巫女の心臓に「断魂(だんこん)の杭」を打ち、巫女の身体を泉へ投じ、自らも巫女の従者として追従する使命を帯びた。

巫女が幼少の頃より選ばれるのに対し、月の刃は巫女が天へ召される豊穣祭のその時刻まで伏せられる慣わしだった。





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