セレーネの言葉は次第に小さくなり、その姿までも、泡のように消えてしまいました。
きらきらと輝く水面には、ただぽつんと、ラグの姿が映し出されて。
――その日から、何度ラグが湖に呼び掛けても、セレーネが姿を現すことはありませんでした。
それはいつしか幼き日の思い出となり、いつまでもラグの心に光を灯し続けます。
大人になり幼なじみと結婚したラグは、かつてのラグと同じ年頃の娘に優しく語りかけました。
「――それじゃあセレーネ、お話の続きをしようか。君の伯父…私の兄はね、それから遠い都にエスタシオンっていう学園をつくったんだ。その学園にはね、どんな人でも入れる」
「どんな人でも? セレーネみたいに、力がうまく抑えられなくても?」
「もちろん。セレーネにはきっと、力の抑えかたを優しく教えてくれるだろうね」
「いいなあ! セレーネ、そこ行ってみたい! でね、伯父様にも会って――」
「セレーネ、あのね、セレーネの伯父様は…アウィス様は、亡くなったんだ。病気だったんだよ、徐々に身体の力がなくなる病でね、長く患っていた」
ラグは、肩にかかった緩く長い三つ編みの髪を背中に回して、セレーネを抱きかかえ、そっと膝に乗せます。
「――でも、そんな病気を抱えながら、後に生まれ来るみんなのために、誰でも入れる広い広い学園をつくった…すごいと、思わないかい?」
セレーネと呼ばれた娘はラグの胸にそっと額を預けると、一筋の涙を流してから、ぽつりと呟きました。
「強い、お方だったのね」