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「――それでは、この辺りでペンを置きます。読んでくれて、ありがとう。…西暦2186年12月25日、セシア・ミュルズ」


途中から瞳を閉じたまま読んでいたリタ。
彼女は、この文章を暗記していたのだろうか。

読み終え、ゆっくりと瞳を開くと、リタはにっこり微笑んだ。

「…これで全てよ。どう? わからない単語も多々あっただろうけど、全体的に至って平凡な手紙でしょ?」

セレストとティナは頷き合うと、互いに口にした。

「私には、この手紙に何らかの抑止力があるとは思えません」

「そうですわ、もっと重々しいものかと…」

不思議そうにする二人の反応をごく自然に受け入れて、リタは楽しそうに語り出す。

「――考えてみて。例えばそうね…この大地がみんな滅びたとして、そこに二人の人間だけ残されていたと仮定する。その二人は争わずに穏やかにいられるかしら?」

「大地が滅ぶなんて、まさかそんなことが…いえ、文面から察するにいずこかの過酷な環境にあったとは考えられますが、滅ぶ…?」

「手紙にあったでしょ? …セレスト君、フィオレンティーナちゃん、この大地は平らではないの。実はまん丸な形をしていてね、太陽の周りをぐるぐる回って動いているのよ。太陽の周りを回るまん丸は、この大地だけではなくてね、いくつものまん丸が距離を保って動いている。…セシアはこの大地ではなく、別のまん丸な大地で生まれ育ち、その大地の滅びと同じころに落命したわ」

両手に二つの丸をつくり、そのうち一つをぱっと開いて背中に隠したリタの手の動きを、二人は呆然と見つめていた。

「別の…大地…、人間が生きていた別の大地が滅んで、そこにいたのがセシア・ミュルズ…?」

ぶつぶつと唸るように呟くセレストの肩を、リタは軽く叩く。

「考えてとは言ったけど、そんなに深く考えなくていーのよ。要は、想像を絶するような場所で死を目前にしながら、残り幾ばくかの食糧を奪い合うことなく分かち合って、仲睦まじく穏やかに生きた二人がいた…その事実さえ知ってもらえたら」





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