私が育った島はとても小さくて、とても平和なところ。

 

初めてこの島に来たのは4歳ととき、母親に連れられてきた。

島の人たちはみんな優しくて、すぐに私達母娘を受け入れてくれた。
その母も、私が8歳の誕生日を迎える前に亡くなってしまったんだけど。

それからは島のみんなが私の親代わり。
だから島のみんなが家族で、大切な人たち。

 

毎日が平和すぎて退屈なこともあるけど、この島を出ることは考えていない。

 

 

それに、島を出られない理由もある。



















 

今日も穏やかな1日が始まる。
そう思っていた時だった。

 
「ひっ、人が死んでる…!!」
 

平和なこの空気に到底似合わない物騒な叫び声。

ただ事ではない様子の声に、作業中だったみかん畑の手入れをやめて浜辺に向かった。
小さな島だから、少しの騒ぎで島中のみんなが集まってしまう。声の出どころに到着する頃には人だかりが出来ていた。


波打ち際に男の子が一人倒れていて、その周りをみんながいくらか距離をとって取り囲んでいる。
事件だ事故だと騒ぎながらも、怖がって近付こうとはしない。

男の子は大の字になって倒れたままぴくりとも動かない。


ケガは無さそう。顔色もいい。
かすかではあるけれど、胸が上下して呼吸もしてるみたい。


もしかして、普通の人だったら本当に有り得ないと思うんだけど、


「ねえ…あの男の子、寝てるだけじゃない?」
















「いや〜〜〜、助かった!腹減って死ぬかと思ったー!!」


さっきまで死体だと間違われていた当の本人は、誰よりも元気よく、そして恐ろしいほどの食欲で目の前の料理を片付けていく。


誰も近付こうとしないから仕方無しに私が近付いていって、とりあえず生きていることを確認し、大人の人たちに手伝ってもらって診療所まで運んだ。
目を覚ますなり開口一番「腹減った」で、今は食堂に連れてきている。


「アンタ、どうやってこの島に来たの?」
「むお、もっぺひゃらもいぺぽー。」
「飲み込んでから喋って。」

顔に飛んできそうな食べかすを手でガードする。

「船乗ってたら落ちてよー。俺、泳げねぇの忘れててホント死ぬかと思った!」
「はぁ!?死ぬかと思ったじゃないわよ!普通死ぬわよ!漂流してきたってこと?」
「ま、そういうことだなー。」
「呆れた。信じられない。」


どんな悪運の強さなのか、船から落っこちて生きてるなんて。


「それで、アンタどうするの?」
「あ、俺はルフィだ。よろしくな!お前、名前は?」
「私?私はナミ。あんまり、よろしくしたくないけど。…そうじゃなくて!これからどうするの?」
「そうだなぁ。どうやったら帰れんだ?」
「どこに帰りたいのかは知らないけど、ここに来る船は本島から週に一回だけよ。」
「そっか。次はいつ来るんだ?」
「さっき出たばっかだから、ちょうど一週間後ね。」
「ええー!一週間も来ねぇのか!?んん、まあいっか。」

まあ、良いのか?
焦ってるのか焦ってないのか、変なやつ。

「ここは観光客も来ないから、宿なんて無いわよ。誰かの家に置いてもらうしか…」

「う、うちは無理よ!」

さっきまで、食堂の外からこちら側の様子を覗き込んでいただけのみんなが騒ぎ出す。

「うちもダメだぞ。家族でめいいっぱいだからな!」


いつもは優しいみんなも怪しすぎるコイツに警戒をしているみたいで、中々受け入れてくれない。

 

確かに怪しい。

何というか、得体が知れない。

 

一人で漂流してたっていう話もどこか現実味がないし、流れ着いた島で不安そうにする様子もなくむしろ楽しんでいるみたい。何も考えていなさそうで、何か企んでいそうで、でもやっぱり何も考えていなさそう。

 みんなが警戒する気持ちもわからなくはない。

 

けれど、何故か私には悪いやつには思えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前っていいヤツなんだなー!」

「どっかで野宿して野垂れ死にされても困るしね。やむなくよ。」

 

 

結局、あの後もコイツの泊まる場所を探しては見たものの名乗り出てくれる人はおらず、私の家に居候させることになってしまった。

 

私の家と言っても、この島に引っ越して来た時に色々面倒を見てくれた診療所の先生の自宅の離れを貸してもらって住んでいるので、所謂プレハブのような造り。

仕切りというものが存在しない。元々、母娘二人で住んでいた頃からそんなもの必要なかったし、赤の他人と二人で住むような家ではない。

 

 

「お前、何やってんだ?」
「見りゃわかるでしょ。仕切り作ってるのよ。」

 

部屋のちょうど真ん中辺りで仕切れるように、ロープを張ってシーツをかける。かなり簡易的な作りだけど無いよりはマシだろう。


ボーッと眺めてるだけで手伝おうとしないのはこの際諦めるとして、ルールは一応決めておかないと。

くるりとルフィに向き直って指を差す。

「いい?この家に置いてあげるけど、この仕切りからこっち側には入ってきたらはっ倒すわよ。緊急時以外、立入禁止ね。」
「緊急時って?」
「死にそうな時。」
「例えば?」
「自分で考えて。それから、同じ敷地内にゲンさんも住んでるんだから、私に指一本触れようものなら大声出すからね!」
「ゲンさん?」
「アンタがさっきお世話になった診療所の先生。」
「おお、おのカラカラのおっさんか!」
「わかったら、私に変なことしようなんて考えないことね。」
「変なことって?」
「あー!もう、うるっさい!!とにかくっ!置いてあげるけどタダじゃない。アンタも働く。私には逆らわない。わかった?」
「おう!よくわかんねぇけど、わかった!」


初日にして早まったことをしてしまったかもしれないと何だか頭痛がしてきた…。


こうして、一週間限定の奇妙な共同生活が始まった。








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