何度も啄むようなキスを繰り返して、その蕩けそうな感覚に思わず吐息が漏れる。
薄く開いた唇の間からルフィの舌が侵入してきた。
舌が混ざり合うのが気持ちがよくて、身を任せていたら、ごく自然な流れでルフィの手が私の胸に触れる。
「何してんのよっ。」
慌てて距離をとって抗議する。
「お前が誘ってきたんだろ?」
「そう…だけど、こんな場所で何考えてんの!」
「じゃあ、場所変えれば良いんだな?」
本当にどうかしてる。
こんなところにノコノコ着いてくるなんて。
歓楽街のホテルの一室。部屋に入った途端に酔いが醒めていくのを感じる。
でも引き返す気は更々無かった。
俗に言うラブホテル。
何と言うか、勿論そのために来たのだけど、目的は一つといった雰囲気が居たたまれない。
実はこういったホテルに来たのは生まれて初めてで、どんないかがわしいものかと不安だったけれど、入ってみればビジネスホテルとそんなに変わらない地味な装飾。
まあ、バスルームの窓が異様に広いのと、ベッドの枕元に避妊具が置かれていること以外は。
ドアのところで立ち尽くしている私をよそに、ルフィはベッドの上で大の字になって「このベッド、寝心地悪そうだなー。」と、当たり前のようにくつろいでいる。
私だけが意識してるみたいで悔しい。
アイツのペースに振り回されたくない。
「おい、どこ行くんだよ?」
「バスルーム。シャワーぐらい浴びさせてよ。」
「えー!時間がもったいねーよ!そんなの、後で一緒に入ればいいじゃねぇか。」
慣れた口振りに何故か苛立つ。
一体、今まで何人の女の子を連れ込んだんだか。
「バカ言わないで。アンタと一緒に入るわけないでしょ。」
ドアノブにかけた手を、いつの間にか後ろに来ていたルフィに捕まれた。
「俺は待てない。」
振り向きざまに奪われた唇が裏切られるほどに優しい。
バスルームのドアに凭れかかって、力の入らなくなった体を支える。
上唇にチュ、と吸い付き、下唇を吸い上げられ、強引に舌が割り入ってくる。
仕草は強引なのに、そのどれもが蕩けるように甘い。
大きな両手が私の顔をすっぽり包み込む。
まるで、とても大切なもののように。
静な部屋では、二人の唾液が混ざり合う音が響く。その音と、キスとキスの合間の吐息が頭をクラクラさせる。
もう立っていられなくて、膝から崩れ落ちそうになる。
突然、ふわりと体が宙に浮いたと思ったら抱き上げられていた。
バランスを崩して反射的にルフィの首に抱き付くと、よりキスが深くなる。
キスをしながらベッドに運ばれてゆっくりと下ろされる。
安そうなベッドのスプリングの軋む音が、これから起こることを想像させた。
口付けたまま、手の感覚だけて私のサンダルを脱がしていく。
さっき結んでくれたばかりのハンカチも解かれてシュルッと肌を滑る音がする。
…意外と器用なことするのね。
ふわふわする頭でそんなことを考える。
ルフィの舌が私の口内を丁寧にかき混ぜる。内側から溶かしていくみたいに。
私はただ必死にそれに応えるように舌を絡ませる。
唇、ふやけちゃいそう…。
私の髪を散々ぐしゃぐしゃに撫で回していた手はするりと下りて体のラインをなぞる。
今更ながら心臓がドクンと跳ねて、次に起こることへの羞恥と期待で身体が熱くなる。
けれど、ルフィの手はピタリと止んでしまった。
「…何?」
うっすらと目を開けると、私に跨ったまま腕組みをして、口はへの字に難しい顔をして見下ろしている。
「お前の服どうなってんだ?コレ、脱がしづれーよ。」
カシュクール風のワンピースはウエストにダミーのリボンが付いていて、それをほどいても勿論服は脱げない。
「それは飾り。ファスナーは、こっち。」
身動きの取りづらい身体を少しだけ横に傾けて、左サイドのファスナーを見せる。
「お、あったあった。女の服って面倒くせぇな。」
文句を言っている割には、声色は嬉々として聞こえる。
ファスナーが下りる音を目を閉じて聞く。肌がひんやりとした空調の風に触れる。
「…ぁ…。」
ファスナーから差し込まれたルフィの手が私の胸に直に触れた。
もう片方の手は服の上から。やわやわと緩慢な動きが私の反応を楽しんでいるよう。
目を閉じているのに、ルフィの視線を感じる気がする。身体が発火しそうなぐらい熱い。
「よし!じゃあ服脱ぐか。」
いきなり抱き起こされたかと思ったら、ワンピースの裾に手をかけて一気に捲り上げられる。
「ほら、手上げろ。バンザイだ。バンザーイ。」
子供の着替えじゃあるまいし…と思うけれど、言われるままに両手を上げる。
腕から引き抜かれたワンピースは無造作にベッドの下に投げ捨てられた。
ちゃんとハンガーにかけておかないと皺になっちゃう…。
抗議する間もなくまた押し倒されて、すっかりコイツのペース。
「ナミ。」
耳元で囁かれた熱っぽい声で、名前を呼ばれたのが初めてだということに気付く。
「ル……。」
同じように名前を呼び返すことは出来なかった。
もう、酔っているせいだけじゃない。絡み合う視線に脳みそが沸騰しそう。
ルフィがゴクリと喉仏を鳴らす。
Tシャツを脱ぎ捨て、もう一度私の名前を呼んで覆いかぶさる。
その声に、目に、素肌に、体温に。
どうしようもなく欲情した。
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