何が起きているのか、最初は理解できなかった。
突然、ルフィが部屋に入ってきたと思ったら、抱きしめられてキスされて。
『彼女なんかいない。』
『もう別れた。』
ルフィの言葉だけが頭の中で、ぐるぐる、ぐるぐるしてる。
どうして別れたの?どうして私に会いに来たの?どうして私にキスするの?
聞きたいことがたくさんあるのに、何も言えなかった。
ルフィの息遣いが、肌に触れる唇が、溶けそうなほど熱くて、麻酔がかかったみたいに体が痺れてる。
このままルフィに身を任せたら、私、どうなるんだろう?
もう、ただの幼馴染には戻れないと思った。
ルフィの手が私の体を這い回る。
私を求めている「男」の匂いがした。
ルフィは何も言わない。
何を考えているのかが全然わからない。
少しだけ、怖い。
「ル、フィ…。」
祈るような気持ちで名前を呼んだ。
ルフィの気配が私の上から消える。
「ご、ごめん…。」
固く閉じていた目を開くと、ルフィはソファの下に移動していた。
聞きたかったのは、そんな謝罪の言葉じゃない。
「ルフィ…何で?」
何で、私じゃダメなの?
他の女の子とどう違うの?
私のことは幼馴染としてしか見てくれないの?
「ルフィ…。」
ルフィの肩に伸ばしかけた手を、振り払われた。
「ダメだ。俺はナミとはセックスしねぇ。」
最低だ、私。
このままルフィに抱かれたら、彼女になれるかもしれないなんて、そんな浅はかな考えを見透かされたのが恥ずかしくて、力任せにルフィを叩いた。
「…最低。」
このまま消えてしまいたい。
「出てって、今すぐ。」
ルフィの顔がまともに見れない。
「もう二度と、顔も見たくない。」
最低な私を、これ以上見ていて欲しくなかった。
「アンタなんか大っ嫌い!」
ルフィに嫌われるのが怖くて、自分から拒絶した。
そばにいられれば、それだけで良かったはずなのに。
幼馴染でいいなんて、大嘘をついていた私に罰が当たった。
あの日以来、ルフィを意図的に避けている。
嫌でもルフィの生活時間なんて覚えてしまっていて、朝はルフィより早くを家を出て、帰りはルフィが帰ってくる時間には重ならないようにと、出来るだけ顔を合わせないようにしていた。
そんな日が2週間続いた。
今日もルフィが家を出る前にと、こっそり玄関の扉を開けると目の前に立っていた。
「ナミ。」
「な、何よ!驚かさないでよ!」
いつも寝坊して時間ギリギリに家を飛び出すこの男が、こんな朝早くに起きてるなんて予想もしていなかった。
「何の用?私、急いでるんだけど。」
「俺、お前と幼馴染やめることにした!」
「…は?」
「俺は、お前と幼馴染とやめることにしたんだ。」
「聞こえてるわよ。言い直さなくていいってば。」
朝から何の用かと思えば、こんな絶縁宣言をしに来るなんて信じられない。
「そうね、私もそう思ってたところ。」
「お前、わかってないだろ?」
「わかってるわよ。」
私とは付き合えないし、私の気持ちに応えられないから幼馴染もやめる。
そう言いたいんでしょ?
「アンタにつきまとったりしないから安心して。さよなら、ルフィ。」
「おい、ナミ!」
呼び止める声には聞こえないふりをした。
ズンズンと風を切るように足早に道を急ぐ。
通り過ぎる人達が、不思議そうな顔で私を見てくる。
それは、そうよね。
こんな朝っぱらから泣きながら街を歩いてたら誰でも不思議がるわ。
もうとっくに泣き尽くしたかと思ったのに、涙腺が壊れたみたいに後から後から涙が溢れてくる。
「…うっ、く……っ、…ひっく…。」
本格的に嗚咽も止まらなくなってきて、これじゃあ本当に変な人だわ。
「アンタなんか大っ嫌いよ…ルフィ…。」
名前を口にするだけで心臓がちぎれそうに痛い。
こんなに好きなのに、どうしたらルフィのことを忘れられるんだろう…?
私達は一緒にいる時間が長過ぎた。
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