私は20歳になった今も男の人と付き合ったことがない。


何度か告白されてデートもしたことはあるけど、何だかピンと来なくて付き合うまでにはならなかった。


周りの友達はすぐ付き合ったり別れたりしていた。


私にはわからなかった。「好き」っていう感情がどういうことなのか。





でも、それは突然だった。


高校2年生の夏休み。

いつものように私の部屋でルフィと一緒に夏休みの宿題をやっていた。
と言っても、ルフィがあまりにも勉強をしないので強制的に教えていただけだけど。


その日のルフィは珍しく真面目に勉強していた。



「俺さ、」
「ん?」



ふいにルフィが、数学の問題集を解いている手を止めて話しかけてきた。



「俺、カノジョ、できたんだ。」



「……………え?」



「何か…クラスのヤツに付き合ってくれって言われた。」




頭を思いっきり殴られたみたいな衝撃を感じた。



「そう…、良かったじゃない?」
「そうか?」
「ええ、おめでと。」
「……うん。」





その後のことはよく覚えていない。何を話したのかさえ。







バカみたい。
手遅れになってから気付かされた。




初恋と失恋が同時にやってくるなんて。



今までルフィの隣に私がいるのは当たり前のことで、幼馴染みは特別で、それはこれからもずっと変わらないものだと思っていた。


その日はおやすみのキスをしないで、ルフィは帰って行った。
私達はもう今までと同じ幼馴染みじゃなくなったんだと思った。




なのに。

次の日からルフィの態度は元に戻っていた。
彼女と会わない日は私の部屋に入り浸るし、以前と同じように猫みたいにキスを攫って行く。



私はその気まぐれなキスを拒めなかった。




その日以来、ルフィにとってのキスと、私にとってのキスは全くの別物になってしまった。








それでいいと思った。



ルフィの隣にいられるなら、私は幼馴染みのままでいいと思っていた。

















「なぁ、どっちが良いと思う?」



週末の金曜日。
男友達に彼女の誕生日プレゼントを一緒に選んで欲しいと頼まれて、買い物に付き合っていた。



小さく控えめなリボンモチーフのシルバーのネックレスと、ピンクゴールドの上品な二連ネックレス。
目の前の男、ウソップは2つのネックレスを両手にぶら下げて交互に見比べている。

真剣に悩んでいるのかと思えば、突然彼女のことを思い出して鼻の下を伸ばしただらしない顔になる。


「こっち。」


私は向かいのお店にディスプレイされている革紐にハイビスカスのついたネックレスを指差した。

「だーかーら、お前の好みじゃなくてカヤにどっちが似合うか聞いてんだよ。」

以前、見せられた彼女とのツーショット写真を思い出す。

「知らないわよ。そのカヤちゃんとやらに聞きなさいよ。」
「それじゃ、サプライズにならねーだろ?ま、カヤは俺様がプレゼントすれば何でも喜んでくれるんだけどな〜。」
「じゃあ何でもいいでしょ?」
「それは違うぞ、お前。俺はそんなカヤの優しさに甘えちゃいけねぇんだ。本当に心から喜んでもらいたいんだ!」
「はいはい。」
「頼むよ、ナミ〜。何でも好きなもん奢ってやるから!な?」
「…何でも?」
「いや、まあ気持ち的には何でもっと言いたいところだが、懐と相談してだな、その…。」
「何にしようかしら?楽しみね〜。」



わざとらしくやる気を出してアクセサリーを物色し始めた私に、ウソップがあからさまに焦っていてついつい意地悪したくなってしまう。



実際、ウソップが羨ましくもあった。




私は今までこんな風に誰かのためにプレゼントなんて探した事がなかった。


誕生日もクリスマスもルフィと一緒に過ごして来たけど、彼女のいるアイツにプレゼントをするのは何か違う気がした。












それから散々お店を回った後に、結局最初に悩んでいた2つのネックレスのうちのシルバーの方に落ち着いた。


約束通りウソップの奢りでご飯を一緒に食べに行くことにしたけど、プレゼントを買って寂しくなったウソップのお財布事情とやらを考慮して適当な居酒屋で済ましてあげることにした。




信号待ちの交差点。



見間違えることのない後ろ姿を見つけた。


ルフィ、と声はかけられなかった。
隣に、甘えるようにして腕を絡めている女の子の姿があったから。



「ごめん、ウソップ。私、帰る。」
「は?いきなりどうしたんだよ。」
「急用思い出したの。また今度奢って。」
「お、おい!ナミ!」



ウソップが引き止めようとした時には既に走り出していた。
1秒でも早くあの場から離れたかった。





今まで偶然なのか意図的に避けて来たのか、ルフィの彼女を見た事がなかった。だから、ルフィから「彼女がいる」と聞かされてもどこか現実味が無かった。





長い髪を丁寧に巻き髪にしている後ろ姿だけしか見えなかったけど、雰囲気の可愛らしい小柄な子だった。





アイツに彼女がいるってことは知ってたのに、電話で話しているところだって何回も見てきたのに。


何で今更こんなにショックを受けているんだろう?







家に帰っても何もやる気が起きなくて、部屋の電気もつけずにベッドに潜り込んだ。



それから10分…15分ぐらい経ったのだろうか。玄関の方から物音がした。確か姉は帰りが遅くなると言っていたはず。
そんなことを考えていたら無遠慮に部屋のドアが乱暴に開けられた。




「ナミ、起きてんだろ?」




心臓が止まるかと思った。




何で?彼女と会ってたんじゃなかったの?どうして来たの?




ベッドに潜ったまま、口には出せない疑問だけで頭がいっぱいになる。



別に2人の間で決めたルールじゃないけど、彼女とデートした日は私の部屋にルフィは来ないのが暗黙の了解のようになっていた。
流石に、いくらルフィでも彼女と会ったその足で他の女の子に会いに行くのはルール違反だとわかっているのだと思っていた。



何も答えない私に苛ついたようで、頭まで被ったブランケットを強引に引き剥がされた。


「何よ?」


隠れるものが取られてしまったので仕方なく起き上がってルフィを睨みつける。


「何って別に…。用は無ぇ。」
「あっそ。じゃあ、今日は帰って。具合悪いの。」
「…わかった。」


大人しく引き下がってくれたルフィに安心していたら、いきなり強い力で腕を掴まれてルフィの顔が近づいて来た。

私は反射的に顔を背けた。




初めてルフィのキスを拒んだ。


嫌だった。



あの子に触れた唇でそのまま私に触れるの?




私の腕を掴んでいる方とは別の手でいきなり顎を掴まれた。


それは、抵抗できない男の力だった。




力強い腕からは想像出来ないほど優しいキスは私を呼吸困難にさせる。


唇が離れると、ルフィは「よし。」と呟いた。
ペットが言いつけを守った時のように。


怒りたいのは私の方なのに、ルフィは不機嫌そうな顔をして「今日は帰る。」と低く言って部屋を後にした。




あまりにも自分勝手過ぎる行動に唖然として、頭がついていかない。



ただ、ルフィの唇の感触を消し去りたくて、私は手の甲で唇を擦った。






ルフィが何考えてるのか全然わからない。





あんなの、幼馴染みがするキスじゃない。





噛み付いてやろうかと思ったのに、それが出来ない私はまるで、ルフィから甘い毒を注がれているみたいた。






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