初めてルフィとキスしたのはいつだっけ?







あれは確か中学校入学前の春休み。

生まれて初めての制服が嬉しくて、制服を揃えたその日に袖を通して、ルフィに見せに行った。



いつもみたいに「スゲー!」って、新しいものを見たときの好奇心旺盛な反応を予想してたのに。




「…それ、どうしたんだ?」
「今日、届いたの。」
「ふーん。」



部屋のベッドに腰掛けたまま、ルフィは目線だけで私を見上げて興味が無さそうだ。



白くパリッとしたブラウスに、濃紺の少しだけ重く感じるブレザー。
一年生の印の真っ赤なリボン。チェックのスカート。


鏡に映った私は、我ながら「お姉さん」っぽくてかなり背伸びした気分になる。


「どう?似合うでしょ?」


少し勢いをつけてクルッと回って見せる。


「ぱんつ見えた。」
「……ばか。」


ルフィのおでこを軽く叩いて、私も隣に腰掛けた。


「ルフィ、来週から一人で学校行くのよ。大丈夫?」
「イヤだ。」
「わがまま言わないの。」
「イヤだ。」
「もう……っ。」





小学生の時のルフィは本当に甘えん坊で手が掛かった。
いつも私の後をついてくるし、学校の行きも帰りも一緒じゃないと駄々をこねていた。





私は「イヤだ、イヤだ」の一点張りのルフィに困り果ててため息をつく。

「ルフィも来年は中学生になるんだから。私から離れて一人で何でも出来るようにならなくちゃダメなのよ?」
「何でだ?」
「何でって…。」



中学生になっても幼なじみといつも一緒だなんて。


すごく、格好悪い気がした。





「だって、私、中学生になったら部活だってあるし、すごくすごく忙しくなるんだもん。」
「そんなの関係ねェよ。」
「関係あるわ。新しい友達だってたくさん出来るし。ルフィだって…。」




一度ヘソを曲げたルフィの機嫌はなかなか治らない。


どう言えばルフィが納得してくれるのかわからなくて、私はどんどん声が小さくなる。
ベッドから投げ出した足をブラブラさせながらつま先を見つめる。


制服をちょっと自慢したかっただけなのに、何でケンカみたいになっちゃったんだろう。



「……わかった。」


沈黙のまま数分の時間が流れてから、ルフィが隣で小さく呟いた。


「本当に!?」


驚いて横顔を覗き込むと、ルフィは相変わらず口をへの字に曲げて不機嫌そうにしているけど「うん。」と頷いてくれた。

私は安心して「約束よ。」と指切りげんまんの小指を差し出す。


「うん、約束する。」



私の小指は宙に浮いたまま。




ルフィの顔がスローモンーションで近づいてきて、唇と唇がぶつかった。



「何でキスしたの?」とは聞けなかった。


「来週から一人で学校行く。」

ルフィが何事も無かったかのように話を続けるから、指切りの代わりのキスなのかなと、私は自分の中で勝手に理由を作った。





でも、ルフィはその日以来、指切りの代わりじゃなくても唐突にキスをしてくるようになった。


私も特に拒む理由もなくて、嫌じゃないからと受け入れているうちに、私達の間でキスは当たり前の挨拶のようになっていた。


















あれが、初めてのキス。






あの時のキスの意味を、私は知らない。











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