12/31 10:23

「やっほーシズちゃん!今年も来ちゃった!寒いから入れて!」
ピンポンピンポンうるっせえチャイムの音で、確かに嫌な予感はしていた。案の定、ドアの向こうにいたのはノミ蟲で、俺はとりあえずドアを閉めた。
「シーズーちゃん!おーい、シズちゃーん!たーいへん!ドアが閉まっちゃったよ!池袋のみなさーん聞いてくださーい!平和島静雄はこの寒空の下に可愛い可愛い恋人を放り出す冷血か、んぐ」
「ぶっ殺すぞノミ蟲ぃ……」
ドアをぶち壊す勢いで開け放し、ないことないことほざくうるさい口を塞いで部屋に引きずり込んだ。片手にビニール袋をぶら下げた臨也は、してやったりと笑っている。クソが。
「いやん、シズちゃん激しい」
「黙れ。死ね」
「だが断る!ひどいな、俺はこーーーんなに君を愛してるのに!」
「……君のおせちを、の間違いだろうが」
「ちっちっちっ!甘いな、シズちゃん。年越し蕎麦とお雑煮もだ」
はい!と笑顔で差し出されたビニール袋の中には、ごちゃごちゃ色んなもんが入れられてる。この海老とかすげえ高そう。俺の給料じゃ買えねえよな。
「……まあ俺も正月くらいはいいもん食いてえしな。ノミ蟲くせえのは我慢してやる」
「はいはーい!じゃ、あとよろしく!」
そう言って俺のベッドに潜り込んだノミ蟲を慌てて引きずり出し、頭を叩いてやった。ぶーぶーうるせえ蟲には、大掃除をやらせることにする。


12/31 15:21

「シズちゃんお腹すいた」
窓ガラスを拭き終わった臨也が、情けない顔と声で言いにきた。そういや昼なにも食べてなかったな。海老の頭を取る作業に没頭していたせいで気づかなかった。
「あー……なにが食いてえんだ?」
「フレンチトースト」
即答かよ。でもパンがねえ。そう言うと、臨也はサイフを掴んで飛び出していった。

数分後、帰ってきた臨也からパンとプリンを受け取った。しょうがねえから休憩させてやろうと思う。


12/31 20:56

「シズちゃん、まだあ?」
相変わらず台所に立ちっぱなしの俺の周りを、ノミ蟲がちょろちょろしている。うぜえ、刺すぞ。
「手前が手伝ったらもっと早く終わるんだけどなあ?いーざやくんよお」
「やあだ。だって俺はシズちゃんが俺のためにつくった蕎麦が食べたいんだから」
「……なら、じっとしてろ。テレビ見とけ」
「紅白飽きたのにー死ね、馬鹿シズちゃん」
ノミ蟲は捨て台詞残して居間に戻っていった。これで少しは静かになるだろう。
つゆの味見をしようとお玉を鍋につっこむ。小皿にとって口を近づけようとした俺の背中を、大いなる違和感が襲った。
「……クソノミ蟲くん、なにしてるのかなあ?」
「シズちゃんの広い背中にへばりついてます。ねえ、俺にさせて、味見させて」
振り返ると、少し低い位置にある臨也の瞳と視線がぶつかる。ぱかりと開けてねだるその口に、お望みどおり小皿の中身をぶちこんでやった。ちなみに、少しも冷ましていない。
「!!?……っ!〜っ!!」
ざまあみろ。俺は背中が熱い。


12/31 11:59

「カウントダウン、ラブ!俺はカウントダウンが好きだ!愛してる!!日付変わるだけなのに指折り数えてしまう人間てほんとおもしろいなあ!ほらシズちゃん!あと5秒だよ!」
「るっせーな……」
「5!4!3!2!1!」





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