01/01 00:00 「あけましておめでとう、シズちゃん!」 「……おう」 「今年こそ早く死んで」 「手前が死ね。むしろ俺が殺す」 「うん、謹んでお断りします。さて、これから新年を迎えて浮かれきっているであろう人間たちを観察しに……行きたいとこだけどムリネムイシンドスギ。シズちゃあん、俺風呂入ってくるから布団敷いといてねー!」 風呂貸すなんて一言も言ってねえんだが。まあ、風呂掃除したのもあいつだし、わかしたのもあいつだから今日は大目に見てやろう。 そう思って、何年か前に臨也が置いていった布団の用意をするために腰を上げた。年に一回しか使わねえその布団は、一昨日干したばっかりだ。 01/01 01:38 「シズちゃん風呂あがるの遅いよ。待ちくたびれた」 手前が無駄に長風呂だったせいでこんな時間になったわけなんだがな。 臨也は布団の上でごろごろしていた。パーカーにハーフパンツ。そんな短い靴下はなんか意味あんのか?そんなもん履くくらい寒いならもっと隠せと俺は言いたい。 「手前のせいだろうが。つーか、待ってねえで寝りゃよかっただろ」 「うるさいなー挨拶は大事だろ。俺はこういうの割と大事にする方なんだよ……おやすみ、シズちゃん」 そう言って満足そうに笑った臨也は、布団に潜り込んで目を閉じた。よくわかんねえやつだ。 「……おやすみ」 ん、まあ、悪くねえな。 01/01 04:20 「シズちゃん起きて!起きてよ!ほらあ!」 「う、るせー……ぶっ殺す、ぞ」 「だあめ。起きて、ほら、初日の出見に行くよ」 「あー?」 初日の出だあ?ふざけんな、早すぎんだろうが。無視して寝ようとする俺の耳を掴んで、ノミ蟲は初日の出のすばらしさについてべらべらべらべら語ってくる。マジ、殺してえ。 「るっせえんだよ!!新年早々殺し初めがご希望か?ああ!?」 「おはよ、シズちゃん!初日の出に行くにはまず腹ごしらえからだろ?だからもう起きて。シズちゃんのお雑煮食べたい」 そう言ってから、臨也は餅を焼いてくる!と台所へ消えた。つうか、こんな時間からよく食欲あるな、あいつ。俺が掴んだら折れちまいそうなくらいほっせえくせによ。 とは言え、臨也のとっておきのスポットで見た初日の出があまりにもすごすぎたので、少しだけ感謝してやらないこともない。だが、やっぱり眠いもんは眠い。帰ったら初二度寝だ。 01/01 09:21 「うー……ん?いー匂い……」 「起きろ、臨也。おせち食うんだろ。布団片付けてこたつ出すから手伝え」 飛び起きた臨也の頭が俺の顎に直撃した。けど、悶絶したのは臨也の方だった。自業自得なので同情とか一切ねえ。 こたつを出して、昨日つくっておいたおせちを並べた。臨也はガキのように目を輝かせている。正月恒例の顔とはいえ、なかなか慣れない。 「おせち、ラブ!俺はおせ「黙って食え」……最後まで言わせてよ!まあいいけど。いっただきまーっす。ん、美味い!この紅白なます美味しすぎる!人参好きじゃないけど、これは食べられるんだ、俺」 「そーかい、よかったな」 臨也が買ってきていたお屠蘇をちびちびやりながら適当に相槌を打つ。甘酒とかナメくさりやがって。美味いじゃねえかちくしょう。 「んー栗きんとんも美味しい!シズちゃん腕上げたよね!いやあ、幸せだなあ幸せだなあ幸せだなあ」 「手前、食いもんに大して興味ねえくせになんだっておせちは好きなんだ?」 「愚問だね、シズちゃん。俺はおせちという伝統文化の塊である食事をとることによってハレの日に臨む人間の気持ちを噛み締「ああ、うん。わかんねえ」」 「なら聞くなよ」 臨也は祝い箸で指し箸をするというめでたいんだかそうでないんだかよくわからない行動をとったあと、その箸で海老をつまんだ。頭も殻もない海老をうっとり見つめたあとでぱくりと食べ、もぐもぐと咀嚼する。飲み込むために上下に動く喉から目を離した。 「海老美味しいなあ、ぷりぷりしてる。シズちゃんも食べなよ。はい、あーん」 「誰がするか!」 「ノリ悪いなあ、もう。にしてもさ、ほんと平和島家のおせちって変わってるよね。海老も田作りも頭とってある……変なの。俺のためにあるみたい」 臨也はうれしそうに言いながらおせちをつついている。俺はとりあえず心の中で母さんに万回詫びた。 01/01 11:37 「シズちゃん、なにお願いしたんだい?」 にやにや笑うノミ蟲になんぞ誰が言うか。初詣の帰り道、ポケットに手を突っ込んで歩く俺の横を臨也が歩く。 「手前は?」 「世界平和」 うん、聞かねえ方がよかった。確か去年もそんな感じだったよな。ポケットの中に入れてあるお守りを撫でて、俺は溜息をついた。臨也は笑う。 「ケチ。教えてくれよ」 「嫌だね。あ、おみくじ引くの忘れたじゃねえかこのノミ蟲野郎があああ」 「ちょっと、それは理不尽すぎるだろ。俺悪くないよね」 ぶつぶつ言う臨也を横目で見ながら、またお守りを撫でる。どうせ今年も、最後の日まで縁なんか結んじゃくれねえんだろうけどよ。 「あ、ここで別れよう。俺新宿に帰るよ」 「おう。気をつけてな」 自然と出てきた気遣いの言葉に、臨也が目を丸くした。困ったように眉をハの字にして苦笑する。 「シズちゃんさあ、いつも大晦日と元旦だけは優しいよね。いつもそうしてろよ。そしたら、俺ら普通になかよくできるよ」 「冗談じゃねえ。手前と普通の関係になんかなりたくねえんだよ」 「あっそ!前言撤回。やっぱ可愛くなーい」 じゃあね!死ね!と言い残してくるりと背を向けた臨也に、声をかける。臨也が顔だけをこちらに向けた。きゅ、とポケットの中で形が変わるくらいに強くお守りを握り締める。 「なあ……誰かの特別であり続けんのって、難しいよな」 「え?」 「……じゃあな。池袋には来るなよ」 臨也に背を向け、ポケットから出した左手を振って俺は足を進めた。今年もよろしくな、ノミ蟲くん。 110119 --- これは静→→→臨なんですよ。ほんとなんですよ。 |