ブロガーとJOHANさん


「うっ……す、すみません」

 私はホストクラブにきて、男の人にチヤホヤされるためにやってきたはずだ。

「いやいや良いんですよ、大丈夫ですかあまり近づかない方がよさげですか。無理はしない方がいいですから」

 それなのに、なぜ。

「……すみませんがそうしていただけると……ありがたいですね」

 ホストのお悩み相談なんてものをしているのだろうか。



 諸君、私はホストクラブが好きだ。そう言うとホスト狂いのヤベー奴と思われるかもしれないが、それはちょっと違う。
 私はホストという職業に、幼い頃から深い興味を持っていた。女の子とお喋りして褒めたりするだけでお金が貰えるの?その男女逆verもあるの?どういうこと?と。その疑問が爆発した私は、弟を使ってホストクラブに潜入させたり、実際にホストクラブに行ってみたりして知識欲を満たしていった。行ったホストクラブについての感想をメモしておこうとブログを開設したらあら不思議、ちょっとした有名ブロガーになってしまった。
 その過程の中でたまたま出会った出版関係の方と仲良くなってしまった私は、今まで行ってきたホストクラブについての本を出さないかと誘われ、今。この豪華客船メイジ号にある高級ホストクラブキノタケにやってきた。

 一流のクラブは黒服から一流である。接客にやってきた黒服の壮年男性を見てそう直感した。外に跳ね気味の茶髪をしたその男性の黒服は、流れるような初回説明をした後にホスト一覧をこちらに差し出してきた。

「どなたでも使命出来ますが、如何しましょう?」
「じゃあこの……JOHANという方で」
「承知しました。それではあちらの席までご案内致します」

 するすると案内されたテーブルを確認。全体的にハイブランドのものであるが、座るのが気が引けるほどという訳ではない。こういう調度品からオーナーの方向性や感性が伺えるのだが……ううむ、あまり分からない。趣味がいいことはわかるが…これはホストを見て判断するしかないだろう。
 そうして店内の観察をしていると、革靴が床を叩いて近づいてくる音。……どうやら来たようだ。

「ハァイ!!JOHANです、ご指名ありがとうございますね!」
「よろしくお願いしま…………」

 テンションの高いホストだな、とそちらを見て、硬直する。
 私が来店したのは夜中零時過ぎの頃だから他の客について酒を煽っていたのであろうことは分かる。だから顔が少し赤らんでおり酔っ払い特有のテンションの高さを維持しているのだ。それは分かるが…思わず、聞いてしまった。

「……顔色が優れないようですが、大丈夫でしょうか?」

 今にして思えば、それが間違いだったような気がする。



「……な、なるほど…妹さんのためにと頑張ってはいるものの女の人が死ぬほど嫌でお酒でも飲まねぇとやってらんねぇ、とガバガバ白ワインを仰いだ結果……」
「…………ええそうです、女に対するトラウマと白ワインの飲みすぎで……うえっ」
「大丈夫ですか吐きますかトイレ行っても大丈夫ですよ」
「お気になさらず…」

 通常ホストは客の隣に座ることが多いのだが、彼はテーブルを挟んで向こう側で机につっぷしている。こんな状態でよく今までホスト続けられてたな。そう感心してしまう程度にはグロッキーになっているJOHANさんを尻目に、私は自分で作ってしまった酒を飲んでいる。
 何度もホストクラブに行っているがこんなことは初めてだ。だんだんその様子が面白くなってきたので、からかうように口から言葉が出てきた。

「…………JOHANさん」
「なんでしょう」
「ピンドンいっときます?」
「……え、いや、は?」
「妹さんの養育費、稼ぐんでしょ?ピンドンくらい行っときましょ。安心してください、金はあるし、私お酒アホみたいに強いから。JOHANさんはそのままグロッキーでも大丈夫ですよ」
「もぶ山さん……」

 少し困ったように微笑むその彼の顔が可愛く見えてきて、私もつられて笑ったのだった。



18,07,19



  
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