卑屈ガールとLINKWOODさん


 ズブズブにハマっているものがある。もうね、後戻り出来ないレベル。のめり込み過ぎるとダメな性格だというのが今回で分かった。

 あたしにホスト通いをさせてはいけない。



 なんでこんなことになったか、聞かれると…元々自己評価の低かったあたしがそもそもなんで豪華客船メイジ号なんてものに乗り込んでいるかから話さなければならない。けど、そんなのみんな興味ないでしょ?とりあえず概要だけ話すとすれば、「商店街のくじ引きで一等賞を当てた」これだけだ。
 この一等賞が豪華客船メイジ号での旅……だった訳で…………。いやいやいや仕事あるじゃん無理でしょ、と思ったのもつかの間。今まで貯めに貯めていた有休消化をしろと促され、あれよあれよという間に旅の日程分の有休を取得することが出来てしまった。マジか。
 ペアでのご招待だったので、休職中の友人を誘って…あたしにしてはワクワクして船に乗ったのだ。

 そこであたしを待ち受けていたのはハイソサエティな店の数々と、普通の生活をしてたら二度と見ないような金額が動くカジノ、そして一際キラキラした高級ホストクラブキノタケだった。


「こんばんは、また来ました〜」
「おや、いらっしゃいませ。最近はほぼ毎日いらしてますね」
「……お、お前金平気か?……ッ痛ェ!何すんだロマ!!」
「お客様に失礼でしょう、ロイ。申し訳ありません、もぶ子様」
「いえいえ…いうて自分でも自覚してるし……」

 すっかり顔なじみになってしまった双子の黒服ーー…ここは顔面採用でもしてるのか?黒服もレベル高すぎるんだよ…ーーたちと話しながら、キャスト一覧を眺める。

「もぶ子さん、今までローテでホスト呼んでたよな」
「そうだねぇ…」
「この方はどうです?元々私たちの知り合いですし、人格は保証しますよ」
「LINKWOODは俺達のこともよく褒めてくれるしな」
「……ほ、褒めてくれるの」
「おうよ」
「優しい方ですからね。もうベロベロに褒めてくれるかと」
「(ベロベロ……?)」
「お前なんだその擬音語、ヤベー奴だな」
「あなたに言われたくありませんね」

 黒服の双子がいつものように口喧嘩をし始める中、あたしは今日の指名を決めたのだった。

「もぶ子様、お気をつけください。私が紹介した張本人ではありますが……この人はたらしですよ」



 自己肯定力がないというか、自己評価が低いというか。そんなあたしにとって、ここはまさに麻薬だった。
 なんてことない事で褒めてくれる、話を聞いてくれる。いや、仕事だから当たり前でしょって言われたらそれで終わりなんだけど。でも、ホストやキャバクラにのめり込む人って、話を聞いて欲しかったりする人が大半だと思う。

「こんばんは、初めまして。LINKWOODです」
「……こんばんは」

 なんてことをつらつら考えていると、本日のホストさんがやってきたようだ。マロングラッセみたいな甘い色の髪と、キラキラ光る緑の目。優しそうに微笑む顔。…今日はまたえらく美人がきたな。

「よろしくね、レディ」
「(レディ?!)」
「……?ど、どうしたの?」
「はぁ〜〜いやなんでもないです、もぶ山もぶ子といいます。よろしく」

 ぺこりと頭を下げると、LINKWOODさんは少し困ったように微笑んだ。

「そんな畏まらなくていいよ、リラックスして。……と言っても、俺も緊張してて……」
「へ?なんでです?」
「指名、そんなもらったことなくってさ。今日も誰も来ないんだろうな〜とか思ってたら、こんな可愛いお嬢さんに呼ばれたから…」



 ……黒服くん、君の言ってた意味が言葉でなく心で理解出来た。
 この人はたらしだ。



「………………ピッ」
「へ?」
「ピンドン持ってこーーーーーーーーーい!!!」
「……えっええええ?!ちょっと?!」



18,07,17



  
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