02 部屋で相談


研究室では、レミとルーク、アーリア、サーハイマンが集まっていた。
レイトンは部屋の扉を閉めると、

「休講の手続きを済ませてきたよ」
「教授が申請をしている間にリストを作っておきました。後はみんなで買い出しに行くだけです」
「ありがとう、レミ」

にっこりと笑って、全員で事件の概要をおさらいした。改めて、目的も確認する。

ボストニアス号で世界を回り、5つのエッグを手に入れる。
そして、アスラント文明のナゾを解き明かす。
これが今回のやるべきことだ。

「そうそう、戻ってきてからの調査でひとつわかったことがあるんだ」

言いながら、サーハイマンは手帳を開いた。

「以前、キミたちに3つの遺跡について話したことがあっただろう?」
「癒しの園と調和の町、それに…無限回廊でしたね」
「そのアスラントの遺産を発見する事が、使者を目覚めさせる条件だったんだ」

サーハイマンの言葉に、ライアーはこの数日で明かされた3つのレガシーについて考えた。
ミストハレリに発見された古代植物の空間、アンブロシア島の海面に浮かんだ白亜の遺跡、モンテドール付近で動く鉱石の巨大原動機。
そのどれもが、現在タージェントの手に渡っているという。

「アスラントは、我々の文明が一定の水準を越えるのを待っていたのでしょうね。このような歴史的な発見に立ち会うことができて光栄です」

楽しみを隠せないといった様子で笑うレイトン。
そして、

「そういえば博士の書いた論文に…」
「――教授、それに博士も。話をするなら支度が終わってからにしないと、いつまでたっても出発できませんよ?」

そのまま話し出そうとしたので、レミが口を挟んで制した。レイトンが「そうだったね」と少しおどけながら言うのが、ライアーの耳にも入った。

「私はエッグのある場所について、もう少し下調べをしておこうと思う」

サーハイマンが眼鏡を上げた。どうやら別行動を取るつもりらしい。
ライアーは、準備に時間をかける、彼らしい選択だなと思った。もしかしたら、迂闊に言えないアレやソレの買い出し、それから根回しという可能性もあるが。

「任せてください! 博士の分の買出しも済ませておきますよ」
「お願いします、アルタワさん」
「そんなにかしこまらないで、レミって呼んでください」

レミは非常に友好的な笑顔を見せ、その勢いにサーハイマンはややたじろいだようだった。

「しかし、女性を気安く呼ぶのは紳士として気が引けるな」
「そんなこと関係ありませんよ。私たちはこれから一緒に旅をする仲間じゃないですか」

レミが胸を張る。
ライアーは、自分がレミと初めて会った時も似たような状況になったなあ、と懐かしくなった。
レミは強気だし、女性の頼みは断りづらい。結果として“レミ”と呼ぶことになり、自分たちは距離もすぐ縮まったのだが、

「では、レミ……君」

サーハイマンには抵抗が拭えないようだった。

「すまないが、私は先に行くよ。買い物が終わったら船に来てくれたまえ」

話は終わったと言わんばかりに、サーハイマンはその場から逃走した。
実際は紳士的に歩き去ったのだが、すくなくとも、ライアーは彼が逃げたように感じたのだった。

「旅をするんだったら何が必要かな…。ごはんに、おやつに、食後のデザート…それに紅茶とスコーンも必要ですよね」

食べ物しか出てないぞと言いたい気持ちを喉の奥に留め、ライアーは訊ねる。

「他にはいらないのか、ルーク?」
「あっ、くまちゃんも持って行かないと!」
「………」
「必要なものがたくさんあるのですね」
「もちろん。世界中を旅するんだったら、しっかり準備していかないとね!」

ルークはアーリアに楽しそうに笑いかけた。
おそらく、この旅を一番楽しみにしているのはルークだろう。初の国外が飛行船による世界一周、それも古代の少女と一緒だとはすごい経験だ。

「買い物に行くなら大通りかな。あそこなら何でも買えるだろうし」
「おおどおり…?」

アーリアが不思議そうにする。
ロンドンへ戻ってきた時は疲れ切って、みな観光どころではなかった。タージェントも心配であったし、一刻も早く、地面に置いてあるベッドで安心して眠りたいと思ったものだ。
ライアーが言う。

「ノースレント通りか。いいな」
「そうだね、買い物ついでに街を案内するとしよう」

同日、アーリアのベッドのことは、同じ女性であるレミへ任せてしまった。このままではどうにも情けないし、今回はがんばりたい。
そんな思いからライアーは、アーリアを見たが、

「わかりました」

アーリアは、かわらぬ無表情で頷くばかりだった。




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