011


 それからまたしばらく船が走って、たどり着いたのは、砂浜が光る海岸。
 奥には森が続き、どうやら無人島であることがうかがえた。怪しい生き物もおらず、一見すると、どこかのリゾート地のようにも見える。

「まさか……!」

 ボートに相席した男性が、慌てた様子で走り出す。そして石碑の前で手帳を開き、騒ぎ始めた。

「間違いない、ここはアンブロシアだ!!」
「アンブロシアだと?」
「ここが……?」

乗客が、口々に言う。


――アンブロシア。
 世界中の歴史家学者が、伝説の欠片を追い求めては消沈しているという、不老不死の王国。
 気高く美しい女王により治められ、民もその女王を敬愛していた。その女王が病に倒れ、民達は秘薬で、自分達を不老不死へと変えた。そして女王が生まれ変わり、自分達の国へ帰ってくるのを待ち続けているという――。


 レイトンの師、アンドルー・シュレーダー博士が研究しているとかで、何度か聞かせてもらったことがある。熱く語られたことがある、のほうが正確かもしれないが。

「たしかにアンブロシアの紋章のようだ。以前、シュレーダー博士の部屋で見たことがある」

 レイトンは興味深そうに、石碑を覗きこんでいた。冒険家は本をめくり、あれもこれもと興奮している。まるで聞き取れない。

「…………」

 レイトンは感慨に浸っているようだった。それはそうだろう。歴史学者が憧れる古代の地を、己が今踏んでいるのだから。
 未知の神秘への好奇心、世紀の発見の感動。歴史を専門にしていない自分だって、その感情の大きさは予想できる。筆舌尽くしがたい感慨が、レイトンの中には溢れているのではないだろうか。

 その世界は、歴史家ではない“ライアー・トゥエイン”には立ち入れないもので。
 彼やレイトンの楽しそうな様子が――欲張りなことであるが、自分はすこし。うらやましいと感じているらしかった。


 ライアーが石碑を見るレイトンを眺めていると、後ろで声が上がった。

「ちょっと見て!」

 振り返ると、砂の上に似つかわしくない、白いテーブルクロスの立派な食卓がたっていた。上にはきれいに並べられた食器とワイン。それからフルーツ。豪勢だ。

「“ゲームに参加されている皆様へ”」

 ルークが、メッセージカードを読み上げた。ライアーは、その後ろからカードを覗きこむ。
 主催者の筆跡でもわかればと思ったのだが、残念ながら文字は印刷されたものであった。

「助かった。喉が渇いて仕方なかったんだ」
「ナゾを解いたご褒美ですかな」

 人々が嬉しそうに、食料を手に取る。

「おい、」

 あまりの警戒心の薄さに、ライアーが声をかけようと口を開いた時。アムリーが言った。

「それとも、これが新しいナゾだったら?」

 一同が一斉に振り返り、固まる。傾けたままのワインが流れる。

「……ッなんでもいい! 俺は食うぞ!」

 中年の男性が叫んだ。
 昨晩から、何も口にしていないのだ。堰を切ったように、乗客たちはそれらを食べ始めた。




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