【装飾品の国】
-Present-





寒さも和らいで、ようやく走りやすい季節を迎えたころ。
私たちは、ある大通りを歩いていた。

この国は、宝石が特産らしい。
国内外から買い付ける人が来るようで、通りには、旅装束の人もちらほら見受けられた。

「ジュエリーショップばかり並んでるね」

あたりは派手な看板ばかりだった。
ガラスケースの中に入った金のへんてこな置物や、銀のスプーン50本セットなどといった、いかにも重量のありそうな品物が並んでいる。

「すこし買っていこうか。高く売れるかもしれない」

キノが言った。

「そうだね。今は余裕があるし」
「よし、安くて質とおまけのいい店を探そう」
「キノはがめつい」

エルメスが、下から非難するような声を出した。タイヤがパンクするのを恐れているのかもしれなかった。

「今は宝石だけど、将来はオイルに化けるかもしれないわけか…」

セシルがつぶやいて、

「キノ、すこしと言わずたくさん買ってってよ。ぼくも今は余裕があるし」
「前に“重いのはいやだ”って言ってなかったかい? エルメス」
「さあ?」

エルメスが、すぐさま意見をひるがえしていた。


+


「いらっしゃいませ。おや、旅人さんですか」
「こんにちは」

キノがまず挨拶をして、装飾品を見せてくださいと言った。

「このブローチなんか、おみやげにおすすめですよ」
「めずらしい形をしていますね」
「ええ。国の広場に咲く花をイメージして作られたものです」
「こちらは?」
「これは森に住む動物を真似て作られたもので…」

私は並べてある商品を一通り見て、じっくり品定めするキノを眺めた。
キノは私よりはるかに見る目があるし、交渉の仕方も上手い。離れて見ると、それが実によくわかる。
いわばこの時間は、私にとって旅人の勉強だった。

ふと、説明を聞いていたキノの目がとまった。
視線の先にあったのは、繊細な細工がされた髪飾りと、透かし彫りで小さな宝石が付いた指輪。
気づいた店員がショーケースを開ける。

「どうぞ、試してみてください」

キノが指輪を取って、指にはめた。角度を変えると、緑の石がきらりと光った。

「きれいですね」

キノが言って、私も心の中で同意した。
でも宝石が小さいし、形も普通で高く売れそうにない。キノにしてはめずらしいものを選ぶなあと思い、理由を聞こうと目線を戻す。

「………」

キノは指輪をじっと見つめていた。口許にほんのわずか笑みが浮かんでいて、キノはこの指輪が気に入ったんだなと思った。

「よくお似合いですよ」

店員が言って、私も同意した。邪魔になるといけないので、もちろん心の中でだ。
キノの目に一瞬だけ悲しそうな色が混じって、

「ありがとうございます。でも、いいです」

指輪を丁寧に外して、ブローチを指差した。

「あれを1ダース、それから右のも同じくお願いします」

両方とも高く売れそうな品だった。値段もそこそこで、キノの眼識と判断力の高さを感じる。

「キノ。あの指輪は買わないの?」

私は、キノが一瞬見せた表情が気になって聞いた。しかし、ふり向いたキノの顔は普通だった。

「これは宝石が少ないし、形もめずらしくない。売れないよ」
「でも、気に入ったんじゃ…?」
「クラッチを握る時に、邪魔になるかもしれない」

キノは指輪に目を落として言った。

「それに、旅人には意味のないものだから」

遠い世界を見ているような目だった。




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