【狙撃の国】
-Sharpshooting!-





赤色の大地の一角に、二人の旅人がいた。

上のほうに、わずかに緑を見せるだけの太い木の枝に、鉄の板が紐で吊り下げられている。それをハンド・パースエイダー(注・パースエイダーは銃器。この場合は拳銃)で狙うのは、黒いジャケットを着て腰をベルトで締めた、若い旅人だった。
おそらく十代半ばすぎ。ゴーグルをつけ、長い髪を後ろでひとつにくくっている。右手で、半身に構えていた。

銃声が二回、続けて鳴った。
銃口から放たれた弾は、鉄板の右上と左上にそれぞれ当たった。金属を叩く音が続けて響いて、今度は右上と右下がへこんだ。空薬莢が排出され、地面で跳ねた。

「あたり〜」

のんびりとした、男の子のような声が言った。

「けど、あんまり定まらないね。レイ、射撃苦手なの?」

煙を吐くハンド・パースエイダーを降ろして、レイと呼ばれた旅人が声のほうを向いた。そこには、一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけをさす)が、センタースタンドで立たされていた。

「苦手というわけじゃないけれど……そうだね。上手いというわけではないかな?」

レイが苦笑する。

「キノが上手すぎるんじゃないのか? エルメス」

別の声が、モトラドの名前を呼んだ。線の細い男性のような、ハスキーヴォイスの女性のような、どちらともつかない中性的な声だった。
その声は、エルメスの隣から出ていた。たくさんの旅荷物を積まれたモトラドだった。

「さっきの抜き撃ちは、相当だよ」

声は続けて、感心した様子で言った。

「ありがとう、セシル」

少年のような声が、セシルと呼ばれたモトラドの横から落とされた。黒いジャケットを着て、すこし盛り上がった岩に座っていた旅人だった。
さきほど話題に出ていた、キノという名前の旅人だ。髪は短く、首にゴーグルを引っ掛けている。精悍な顔つきをしていて、歳は、レイと同じくらいに見えた。

「けれどボクだって、百発百中とまではいかないさ」

キノは、右腰に吊った大口径リボルバータイプのハンド・パースエイダーをそっと触った。キノはそれを『カノン』と呼ぶ

「そうだね。百発……九十九中くらい?」

エルメスがおどけた様子で言って、キノはエルメスに顔を向けた。どことなく苦い顔だった。
レイは素直に感心し、すごいねえ、と笑った。
セシルが疑い半分で、それ本当に? と聞いた。

「そうじゃなくて、それ以外の要素も重要だってこと」
「キノはそれ以外もピカイチじゃん。そこらを走るお肉だって、キノの手にかかれば一発だよ」
「どうにも、ほめられている気がしないな……」

キノは憮然とした表情でつぶやいた。そのうちにレイが鉄板を回収しに行っていて、ちょうど紐をはずし終えたところだった。キノとエルメスは、それをのんびり眺めた。

「何言ってるのさ、キノ。すでに料理では負けてるんだからね。ここで取り返さないと」
「“取り返さないと”ってなんだいエルメス。ボクたちは競争しているわけじゃないよ」
「でも、レイはやる気だよ?」

小走りで一人と二台の元へ戻ってきたレイは、セシルに取り付けられた鞄に鉄板をくくりつけながら、

「早く追いつきなよ、レイ」
「うん、がんばらないとね。セシル」

セシルの激励に答えて、鞄の蓋を閉めた。

「………」

キノはなんともいえない表情を作る。レイが『シュトー』と呼んでいる自動式が、彼女の腰にきちんと収まっているのを確認して、キノは口を開いた。

「練習は終わりだ。入国しようか」




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