【分かれる国】
-Stay With You-
僕の名前はセシル。モトラドだ。
僕はレイという少女と旅をしている。レイは紆余曲折を経て生まれ、紆余曲折を経て育ち、そして僕と旅に出た。
その後様々なことがあって旅を止めることを決意したのだが、結論から言うと、旅はまだ続いている。でもそれは別の話だ。
同行人はキノ。それからエルメス。
キノはレイと同じ年頃の人間で、エルメスは僕と同じモトラドだ。
彼等とは旅の途中で出会い、その出会いはレイに多大な影響を与えた。初めは旅の先輩として、次に友として。
そして今、また二人の関係が変化しようとしている。今回は、それについて話そうと思う。
***
その国は、四つに分かれていた。
「地域入国、ですか?」
レイは門兵の言葉を聞き返し、理解しようと頭を働かせているようだった。
キノは前例に覚えがあるのか、単語だけで理解した様子で、それはエルメスも同じだった。
僕はと言えば、どう説明したら良いものか、なにか良い例えはないかと頭を巡らせていた。
「つまり、防犯または統治上の理由から、居住区をブロック分けしているってことだね」
エルメスが言う。前提条件だ。
「そういう区分けは他の国でもあったけど、ここはそのブロックごとに、入国手続きをしなくちゃいけないみたいだ」
キノが続けた。国土条件だな。
「しかも二人組以上の旅人は、防犯上の理由につき、ばらばらに入国しなくてはならない。また、各ブロックの行き来、再入国を禁ずる」
僕は印字された文面を読み上げた。これは特殊条件。
「だから、入国する地域を決める。国のなかに国があるみたいなものかな?」
レイが例えた。
「それを“地域入国”と呼んでいるんだね」
すなわち、命名条件である。
レイは理解したらしく、なるほどと言った。
話自体は単純なもので、つまり呼び名に地域差があるだけのことだった。レイの理解が鈍かったのは、純粋に経験の差だろう。
「それで、どこに入国しますか?」
門兵が尋ねて、レイとキノは頭を悩ませた。
分割する旅人に、モトラドは含まれていない。しかし、エルメスが面白がって、
「レイについて行こっかなー」
なんて言うので、二人が話している間に、しっかりと釘を刺しておいた。
「じゃあ、ボクはこの“通信の街”にしようかな」
「私は“噴水の街”だね」
レイが決めて、キノも行先を決めた。それから滞在日数と、合流時間を話し合う。
定められた最低滞在期間である五日間になった。エルメスはすこし長いとぼやいた。
二人はそれぞれに手続きを済ませ、書類を受け取って、居住ブロックの入口に立った。
キノが軽く左手をあげた。
「じゃあ五日後に。レイ」
「うん。またね、キノ」
そして、僕らは『B』と書かれた門をくぐって、そのブロックへと入国したのだった。
***
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