久しぶりのふたり旅だった。
今でもまれに各人で出かけることはあったが、ホテルに戻ればキノやエルメスがいるわけで、以前のように自分達だけで行動指針を決定するのは久々だ。ともすれば、懐かしささえ感じる。

「こんなふうにセシルと一緒なの、ひさしぶりだね」

レイも同じく感じているらしかった。旅の初期の事を思い出したり、あの教会の中庭で、ふたりだけでかくれんぼをして遊んだことなどが話題に出た。
確かあのかくれんぼは、レイの全戦全勝だったように思う。


並木道にそって進んでいくと、大きな公園に差し掛かった。

「これが、あの説明の公園かあ」
「入ってみる? レイ」

レイが感心して言って、僕たちは中へ入った。


公園の中心には大きな噴水があって、水が、見事な曲線を描いていた。
しばらくそのまま見ていると、急に水量が変化した。弱くなって高さがなくなり、かと思えば強く舞い上がり、リズミカルな動きになった。

「すごいね!」

レイは興奮したようで、はしゃいだ声を出した。

「うん、凄い」

僕も同意する。
次々と変わっていく水の流れは、まるで熱した金属のふちに箸をあてるようだった。

ふたりでベンチに座って眺めていると、前を少年が通りかかった。まだ男の子と言っていいくらいの年齢の子だ。

「こんにちは、旅人さん」
「こんにちは」

レイも挨拶を返す。
少年はそのまま走り去って、そしてまた戻ってきた。若い女性を連れていた。

「ほらおかあさん、旅人さんだよ」
「あら、ほんとね」

女性は微笑を浮かべた。

「こんにちは。お邪魔しています」

レイは軽く頭を下げる。

「この国へようこそ」
「ここは、各ブロックで区切られているんですね」
「ええ。旅人さんが、我がブロックを選んでくれて嬉しいわ」

レイが「他のブロックも捨てがたかったですよ」と言うと、女性は首を振って、噴水を指差した。

「こんなに大きな噴水は、他ではないわよ。ここを選んで正解よ」
「とても見事ですね。感心していました」
「でしょう?」

女性は嬉しそうにした。そして、このブロックが大きな観光の目玉を作ったから旅人が集中して、それを妬ましく思った他のブロックが真似をしたのだと言った。

「特徴を模写するだけじゃ駄目よね。ここは、お祭りも作ったもの」
「ぼくも、おまつりに来たんだよ」

女性が誇らしげに言って、少年が横から口を挟んだ。

「きょう、これからやるんだよ。劇をみるの」
「劇?」
「ふんすいのれきしだよ」
「このブロックの由来の歌劇なの。よかったら、見ていってちょうだい」

女性が補足して、親子は広場へと歩いていった。
レイはその様子を笑顔で見送る。

「一日目の行動は決定だね、セシル」
「相変わらず計画性のない」

僕は、嬉しそうなレイに、さも呆れているかのような声色で言った。
レイが笑って、

「あいかわらずなのは、セシルのあまのじゃくも」

なんて言うので、僕もつられて笑った。


***




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