【雨宿り】
-EavesDrop-






あるとき、白色の空の下を、二人の旅人が道を走っていました。

二人はモトラド(注・空を飛ばない二輪車のことです)に乗って、自動車で走るには狭く、モトラドで走るには広めの道を進んでいました。土の道でした。
周囲では霧雨が降っていて、遠くの稜線にはもやがかっています。視界は走りにくいほど悪くはありませんでしたが、良くもありませんでした。

ぽつぽつと、雨粒は大きくなってきます。たれのついた帽子とゴーグルをかぶった旅人が、うしろを走る旅人に合図を出しました。
そのまま、旅人はゆっくりと速度をさげます。
うしろの旅人も遅くなって、やがて二台は止まりました。

このままだと雨が強くなるかも、と先に止まった運転手が言いました。
どこか探そうか、と後から止まった運転手が言いました。

先に止まった運転手は、自分のモトラドに呼びかけました。
セシル、どこかありそう?
モトラドも答えます。
この先に、音が違うところがあるよ。レイ。
レイと呼ばれた運転手は、もう一人の運転手に言いました。
そこでいいかな、キノ?
キノと呼ばれた運転手は、うなずいて自分のモトラドに話しかけました。
エルメス、さっきから黙っているけれど、もしかして寝ているのかい?
すこし間を置いて、モトラドから返事がありました。
……む?



セシルが見つけたのは、洞窟でした。
湿った空気は冷たくひんやりとしていましたが、強くなってきた雨を防いでくれます。すでに走ると痛いくらいの雨でしたので、二人はここで雨宿りをすることにしました。
セシルとエルメスを平らなところに止めて、タープで雨と盗難にそなえて、そして二人は、洞窟の様子を確かめます。

奥は岩がたくさんで、どこからか木の根っこが出ていて、地面はでこぼことぬかるんでいました。
人が通れないくらいの穴から、水がちょろちょろと流れているのが見えます。地下水かもしれませんでしたが、残念ながら、手は届きそうにありませんでした。
深そう、とレイが言いました。
キノとレイは岩の様子を見ながら、でこぼこの上を歩きます。天井から水が落ちて、地面で小さく跳ねました。



突然、キノはレイの体を抱きとめました。
レイが足を滑らせて、転びそうになったのでした。そのままキノが訊ねます。

大丈夫かい?

腕の中のレイは、詰めた息を吐きました。早くなった心臓を落ちつかせるように、深呼吸を一回します。そして、お礼の言葉を述べました。

うん。

ゆっくりと、キノの腕が離れていきます。
気をつけて、と言いながらキノが一歩を踏み出そうとして、急にレイに腕を引かれました。

え?

キノの足のちかくを、すばやいなにかが走っていきました。からころと、白く固いものが転がり出ました。

…。
…。

二人は、それを見て口を閉じました。
そして目をつむって、しばらく動かないでいました。





やがてキノは、レイの手を引きました。
戻ろうという意味でした。
レイもすなおについてきて、でも一度後ろを見ました。キノはふりかえりませんでしたが、レイの手に力がこめられたのを感じ、強く握りかえしました。

二人は、もと来た道を戻っていきました。
レイの手はキノの手にしっかりとつながれていたので、今度はレイも転びませんでしたし、二人とも黙っていました。

足音だけで戻ってきて無言のままのキノとレイに、起きたエルメスが言いました。

さっきから黙っているけれど、もしかして寝てるの?

キノは答えました。

寝てないし、寝るつもりもないよ。ボクらはまだ旅を続けるから。
何の話?
ここにいない誰かの話さ。


二度と目覚めない人へ、聞こえるように言いました。



【END】
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EavesDrop(あまだれ・盗み聞き)




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