【終わるときの話】
-The Following World-
光が見えた。
暗い静寂を破って、強く流れる光。
――美しい。
夜明けがこんなに美しいと感じたのは、彼を失った、あの日以来かもしれない。
時を止めた彼の隣。
私を照らした容赦ないそれに、私は涙していた。
涙は次々にあふれる。勝手に流れる。落ちる。
なぜ泣いているのかと考え、そうして、夜明けがこんなにも美しいからだと結論付けた。
私たち人間に何があっても、輝き、昇り、照らす。切ないほど強固で、残酷なほど平等な――太陽。
かつて人であったものと多くの空薬夾に囲まれて、私は一人で天を仰いでいた。
生き残って嬉しかったのか、彼が死んで悲しかったのか、守れなくて悔しかったのか。そのどれでもなくて、すべてである気がした。
ふと、空の藍が青に変わっているのに気づいた。
それを言う相手は、もちろんいなかった。
私は、また泣いた。
泣いて、泣いて、泣いて。そしてその場を立ち去った。
旅は終わった。
まばゆい視界の中で、この国を出て行ったあの子を思い出す。
私の知恵と、技術と、そして彼のハンド・パースエイダーを持っていった少女。
彼女が始めてくれた時間は、私にとってかけがえのないものとなった。
失意の忙殺、希望の目覚め。そしてその先にある恐怖と、それを越えた充実。満たされた日常。
色彩溢れる、輪郭を持った世界。
私の時間で得た経験は、言葉で言い表せないほどの素晴らしい情動だった。それはつまり、有意義だった。
――渦中においては見えずとも、過ぎては感得のこととなりけり。
それだけのことを実感するために、いやはや、自分は長い年月をかけたものだ。
(エゴだけど、エゴでしかないけれど)
私たちの世界は、あの子が連れていったという安心感がある。
彼女が何を選ぼうとも、流れが続く自信がある。託せたという希望がある。
(眠るには、十分)
山が、谷が、雲が、森が、川が――自然が、変わらずに繰り返されるという事実が、不思議と頼もしく感じられた。
一人じゃないというのは、こんなにも穏やかなものなのか。知らず知らず、笑みがこぼれる。
光の中で、彼が笑っている。
ずいぶん待たせてしまったけれど、それでも貴方は私に生きてほしいと願っていただろうから。だから、これまで生きてきましたよ。
この出会いは、貴方からの贈り物だったのかもしれないわね。
私は語りかける。
「おやすみ、」
良い旅を。
――あなたに、幸運を。
***
山々が、緩やかに連なる高地。
その山稜のひとつに、一人の旅人がいた。
周囲の森は赤や黄色に紅葉し、流れる季節を告げている。下に、灰色の岩地が見える。
旅人は黙って、沈んだ谷間をしばし眺めた。短い髪が風に吹かれた。
そして、一台のモトラドに乗って走り去った。
色鮮やかな秋が終わり、白い冬が訪れようとしていた。
それを迎える人間は、もうこの国にはいない。
(眠るには、少しの希望があれば十分です)
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