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(※不快なセクハラがあります)



居心地悪そうに、キノが唸った。

「からだが軽すぎる…」

キノは憮然とした顔で、定まらない視線をあちこちへ泳がす。
レイもどことなく緊張して、二人は壁際に立っていた。会話を交わしつつも、視線は周囲から離れない。警戒度は強めだった。

「心もとない」
「そうだねえ」

ふう、とレイが息をはく。



二人の入国は歓迎された。
宿泊、旅用品の補充、食事。全てが国費でまかなわれるが、それには守らなければならない条件がふたつあった。

国王のパーティーに、正装で出席すること。
武器は持たないこと。

周囲に国はなかった。
二人は仕方なく条件を飲み、入国二日目の今日、こうしてパーティーに出席しているのだった。

キノは、艶やかな緑色のサテンのドレス。花を模した髪飾りに、控えめなネックレスが輝いている。
レイは、ふわりと広がるレースのドレス。丁寧にセットされた髪に、淡い色のパールが散っている。
その豪華な装飾は、専門の従者によるものだった。

「こういうのは苦手だなあ…」

レイがつぶやく。

「男の人もいっぱいいるし…」
「不安かい?」
「すこし…ね」
「…ボクが――」
「だってね、今日のキノすっごくきれいだから。…私が守らなくちゃ」

守るよ、と続けるはずだったキノの声は、前を向いたままのレイによって遮られた。聞こえなかったらしい。
レイは周囲への警戒を緩めずに、小さく、声をもらした。

「というか、…いやだ」
「! ………」

レイを見ていたキノは、驚いたように目を開くと、前方へ視線を戻して斜め下へ目をそらした。その顔はわずかに赤く、照れくさそうな、つい嬉しさがにじみ出てしまったというような表情だった。
そして、こんなふうに臆面もなく妬くレイを見られるなら、社交場もたまにはいいかななどと思うのだった。

「こんにちは、美しいお嬢さん」

ふと、視界の端でレイのドレスが動いた。
キノが顔を上げると、黒いタキシードを見事に着こなした青年が、キノの目の前に来たところだった。壁に背中を付けていたレイが、いつのまにか手前に踏み出していた。

「ワインはいかがですか?」
「…ありがとうございます。しかし、お酒は飲まないので」
「おや、そうでしたか」

青年は妙に期待を込めた、あやしげな目で笑った。

「ずっと壁際にいるようだけど、踊らないのかい?」
「興味がないので」
「それは残念だ。君のドレスが広がる様子を見たかったのだがね」
「そうですか」
「君の髪の乱れる様子など、素晴らしいだろうね。ああ、もちろん風でだけれど」
「先ほども言いましたが、踊る気はありません」

キノはあくまで淡々と、しかし的確に否定をくりかえした。青年はしつこいほど粘る。言葉遣いは丁寧だが、端はしに含みが見られた。

「…ちょっと」

ついにレイが、我慢ならない様子で口をはさんだ。

「あまり近寄らないでください。彼女はいそがしいんです」
「おやおや。誘われないからといって、口を挟むのは感心しないな。ヤキモチかい?」
「そんなわけないでしょう!」
「君もよく見れば可愛いけれどね。でも今は彼女とお話しているんだ。邪魔しないでもらえるかな、ちいさなお嬢さん」
「な…!」

怒りを見せるレイを軽々といなして、青年は再びキノへ向いた。優雅に一礼して、笑顔を作る。

「やあ、邪魔が入ってしまったね」
「………」

青年の笑っていない瞳を、キノは冷たい目で迎えた。
その後ろでレイが、怒ったような、泣いてしまいそうな顔できつく口を結んでいた。

「申し訳ありませんが、ボ…わたし、には心に決めた人がいますので」

キノはあからさまにつっけんどんな様子で言った。

「パートナーがいらっしゃいましたか。それはそれは…」

青年は大げさに残念がって見せて、だが笑みをたたえたまま、

「しかし、こんな美しい人を繋いでおかないなんて、いけない彼だ」

ぐい、とキノの腕を取った。

「そんな奴は放っておいて、僕と行きましょう」
「はなしてください。人を呼びますよ」
「指輪も贈ってくれないような男がいいのかい?」
「あなたには関係ありません」

キノは声を低くして、思いきり手をふり払った。自然な流れで、青年の眼前を掠ってやる。
青年は驚いて後ずさった。

「レイ、行くよ」

そのままレイの手を引いて、キノはホールを抜けて行った。
残された青年は、ゆがんだ顔で扉を睨む。忌々しそうに吐き捨て、

「バカな女だ」

そして顔を切り替えて、次のターゲットに狙いを絞った。



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